HOME >> 協会からのお知らせ >> 石川嘉延県知事・伊藤孝県建設業協会会長対談
建通新聞静岡 1月1日 新春特集号<総合Ⅰ>2~3面掲載 |
近年、市町村合併や地方分権など社会・経済情勢が、大きな変革期を迎えている。建設業界においても、競争が激化する中で「国際化」や「IT化」の波が押し寄せ、変革に対応できる体制の確立が求められている。財政状況は依然として厳しい状況にあるが、公共事業は県民が安全で快適な生活を送るために大きな役割を果たし、本県にさらなる飛躍をもたらすものと期待されている。
ここでは、石川嘉延県知事と、県建設業協会会長・県建設産業団体連合会会長の伊藤孝氏に、18年度の予算編成・展望や災害への備え、将来に向けた人材育成の取り組みなどについて話し合ってもらった。
■18年度の予算編成方針と、社会基盤整備を強固なものにするための公共工事の在り方についてお話し下さい。
石川知事 |
石川知事 投資的事業のうち、社会資本整備事業については、ピーク時の平成10年度と比較して約半分の水準となっています。
半分という数字だけ見ると、大きく減少しているイメージが先行しがちですが、平成10年の前後では景気対策のために、従来よりも公共投資の枠を拡大した特別な期間でありました。そういう突出した時期を除いて考えると、16、17年度の予算規模は「通常ベース」ではないかと思います。
18年度の予算編成も、17年度の規模を確保することを前提に調整を進めています。ただ、国の補助事業は若干減る傾向にありますので、県もそれを受けて、数パーセント程度は減少する可能性があると考えています。
■社会基盤整備、県土づくりの担い手として、地元の建設業界の果たす役割をどのようにお考えですか。
伊藤会長 過去の過剰な形ではなくて、「本来の社会基盤整備」を考えた場合に、どのような事業が必要かということを県のご当局に探って頂き、それを受けてわれわれも行動していきたいと考えております。真の社会基盤整備を探っていくことは、ひいては知事が掲げておられる理念の実現につながると思いますので、その「行動部隊」して、お力になれればと考えています。
いいもの創り出して、後世に残すために公共工事の品質確保を促進する法律が整備されましたが、ガイドラインが示されましたので、ぜひ具体的な段階にまで実現して頂きたいです。国と県では、試行段階まで進めて頂いておりますが、各市町ではさまざまな考え方があることから、必ずしもスタンスが一致していないのが実情ですので、ご指導を願いたいと思います。
ただ、国や県が指導する限界があるのも理解していますので、各市町がどういう状況のもとで、どのようなスケジュールで進めているのかを把握して頂きたいと切望します。法律で決まったことをいつ実行するのかについて、舵取りをして頂けばと思います。
石川知事 品確法について、県は市町に対して技術的な指導・助言が求められていることから、その体制を整える考えです。助言や指導を生かすためには、伊藤会長がおっしゃったように、出た成果を公開することが大切だと思います。公開することにより、市町が取り組むための意欲の向上につながるのでは、と捉えています。
今、世の中が変化する流れが激しい中で、取り組んだことがすぐ成果に出ることが重要だと考えます。社会資本整備を進める際の手法として、まんべんなく実施するよりも「選択と集中」の基本原則を踏まえて、事業の成果ができるだけ短期間で出る事業展開が、今まで以上に求められるのではないでしょうか。
基本的な考え方として、社会資本整備の優先順位付けを行い、できるだけ早く事業効果が発揮できるよう重点投資し、整備を進めていくことで、メリハリのある事業の推進に取り組みたいと思います。
■東海地震への備えも含めて、災害から県民を守るための県土づくりに向けた取り組み、考え方についてお話し下さい。
石川知事 「災害に強い県土」をつくることは、非常に大切なことだと感じています。本県の場合は、東海大地震の発生が心配されますし、過去の狩野川台風や七夕豪雨などを筆頭に、しばしば大きな風水害にも見舞われています。
これまで、治山・治水事業や、木造住宅耐震化推進プロジェクト「TOUKAI|0」をはじめとする地震対策は、県の重要施策の柱の一つとして、重点的に進めてきました。
ただ、地球温暖化傾向を背景に、雨の降り方が以前と違って短時間の集中豪雨が頻発している状況があります。さらに、山林の手入れが滞っていることも手伝って、大きな災害を引き起こす一因になっています。これを受けて、治山・治水について従来の基準では対応しきれない要素もあり、課題は多く残っているとの見方もできます。この課題を一つひとつ的確に受け止め、対策を講じていきたいと考えています。
災害が発生した後の復旧事業については、各地域で活動されている地元の建設業者に依存するウエートは重いです。2年前、伊豆地域に大きな被害をもたらした風水害の被災地では、地域の建設業の方々にご尽力を頂き、地域単位の建設業協会の機動力や重要性を再認識しました。今後も、地域の復旧活動の担い手として、頼りになる存在だと思っています。
■2年前の台風災害では、地元の建設企業がいち早くかけつけ応急復旧にあたりました。地域社会において、求められる業界の役割についてお話し下さい。
伊藤会長 |
伊藤会長 災害時などの緊急事態には、地域の実情を把握しているわれわれ建設業者が先頭に立つことが早期復旧への近道ではないかと思っております。また、災害復興支援業務は、建設業者の責務であると認識しています。
一昨年10月の台風22号の際に、地元建設業界が先陣を切って、復旧業務にあたったことは、そのような認識に基づく結果だと考えています。
そのために、静岡県建設業協会では「いざ」という時に具体的に復旧にあたることができるよう、緊急連絡網を整備しています。また、県と災害協定を締結させて頂いているほか、協会単位では山梨県、神奈川県の建設業協会と災害時における相互応援体制を構築しています。
現実に出動することがないように願ってはおりますが、不幸にも災害が発生した場合に備えて『災害時に被害を抑える予防策』と『災害が起こった時に緊急対応できる体制』の両輪の構築に、今後も取り組んでいきたいと考えています。
■浜松市が政令市に移行することで、静岡市と2つの政令市ができることになります。県が果たすべき役割についてお話し下さい。
石川知事 これまで、県が担ってきた社会資本整備関係については、県道や県が管理してきた国道などは政令市に移管されます。河川については、個別に協議して政令市が管理を担う河川と、従来通り県が管理を担う河川とに分かれます。農業土木関係は、県の所管事業として残ることになります。
また、政令市と言えども県の一部ですので、市の区域を越えるような大規模な社会資本整備については県が役割を担うことになります。今後も、県・市が協調し連携を取りながら事業を進めていかなければならないと思っています。
■新しい政令市が誕生することについて、会長はどのようにお考えですか。
伊藤会長 道路事業が政令市に移管されることにおいては、維持や保守のレベルをどのように設定するのかがカギになるのではないかと思います。県と市がよく協議されることで、従来水準の道路づくりが実現されるよう切望しますし、われわれも機会を通して提言させて頂けばと考えています。
また、移管時には事務作業が遅れがちになることも想定されます。実際、現場からの声として、静岡市・清水市の合併の際には公共事業の発注や事前の設計、測量、現地調査について空白期間が生じてしまいました。
工事の進ちょくに影響を及ぼす恐れもありますので、ぜひ空白期間を最小限に抑えるよう、スムーズな移管をお願いしたいです。
■高齢化社会が進む中で、技術や技能を次の世代にどう引き継ぐのかが大きな問題になっています。官民ともに、将来を担う人材育成は大きなテーマだと思いますが、知事のお考えを。
石川知事 何とか、団塊の世代が第一線を退く前に、後継者にうまく技術・技能を伝承して頂きたいと思います。
今後、少子化などにより人手不足になる状況も考えられますので、生産性を向上させる取組が非常に重要な要素になるのではないでしょうか。したがって、機械化・省力化を極限まで追求することと、技術革新を徹底して進めることが大切だと思います。
特に、最近、心強いこととして建設業界はコストが高いという批判があるかもしれないですが、民間の設備投資などでは工期が同じものを建設した場合、アジア各国と比べて日本のほうがはるかに優れていると聞いております。
工期もコスト面に反映されますので、さらに技術革新が進めば、建設業界自体の体質強化や活性化につながるのではと思います。その担い手となる人材の養成や確保は重要ではないかと思います。
■建設業界でも、さまざまな局面で高齢化の問題が出ていると思いますが。
伊藤会長 高齢化も問題ですが、現実問題として高度な技術を持つ団塊の世代が退職していく状況において、再雇用なども含めて、その技術をいかに伝承していくかが大切になります。
われわれの持つ技術は、世界一のレベルだと自負しておりますが、現在の社会状況などを踏まえた場合、「お客さまに直接的につながる技術とは何か」について忘れてはならない思います。過剰なもの、無駄なものは捨て、コスト還元を進めていくことは喫緊の課題だと感じています。
■本県が経済や地域振興を推進する中で、整備中の第二東名自動車道、静岡空港はどのような位置付けとなりますか。
石川知事 第二東名については、日本道路公団が中日本高速道路株式会社に改編して、何が変わったのか「実の部分」を示して頂きたいと思っています。株式会社になったからには、民間企業は投資した資本を早期に回収するために全力を挙げることが大原則となります。
公団時代のように予算に縛られて年間の工事量が決まるということではなくて、資金調達さえできれば、どんどん工事を進めて、供用開始時期を半年でも1年でも前倒しして頂きたいと期待しています。
静岡空港については、平成21年3月の開港が現実的に見えてきました。未買収用地の取得も見通しが確実になってきましたので、あとは残っている工事を完了させ、国内外の航空会社と路線就航についての約束を取り付けることが重要だと認識しています。
■建設業界の期待も大きいのではないでしょうか。
伊藤会長 空港が整備されれば、必然的に交通アクセスの整備が求めれてきます。地元建設業者としては、大変期待しておりますし、周辺に民間企業が工場などを立地し、進出するような状況が生まれれば、大きな経済効果が見込まれます。
「国際観光拠点としての静岡県」の構築のため、われわれも業界をあげて支援に取り組む考えですので、今後ともよろしくお願いいたします。