ズームアップインタビュー みんなで大きく育てよう〜完全運用になった富士山静岡空港訪問

6月に開港し、さらに8月末に2500メートルの滑走路ができて完全運用された富士山静岡空港。たんに新しい交通手段ができたというのにとどまりません。静岡県の魅力、資源をあらためて発見させるきっかけになるとともに、そうしたわが街、わが県発見によって大きく育てていく空港といえるのではないでしょうか。静岡県建設業協会総務・広報委員会では、すでに「けんせつ静岡」(231号)の「わが街ウオッチング」で詳しく空港をご紹介しましたが、今回は、完全運用がなったばかりの空港を訪れ、森田諭静岡空港管理事務所長と、藤田泰秀静岡空港建設事務所長のお二人に話をうかがいました。

インタビューの様子

【完全運用でさらに便利に】

▲ターミナルビル出発ロビーは、吹き抜けのガラスが開放感を演出する

委員ようやく完全運用になりましたが、これまでの運行状況を教えてください。

森田所長開港時期は梅雨時で、悪天候による欠航などにより、お客様に御迷惑をお掛けしました。空を見上げてやきもきする日が続きましたね。梅雨が明けてからは欠航率が減り、完全運用になってILS(計器着陸装置)が使えるようになりましたので、今後はさらに改善されると思います。

藤田所長今、あそこに止まっているのが「赤富士」と呼ばれている76人乗りの飛行機。こちらがJALのエンブラエル170。青い飛行機は、ブラジルから売り込みに来ているものです。建設業界でも1機いかがですか。

委員見学のお客さんが多いと聞いています。建物は小さいようですが、混雑はしないのでしょうか。

森田所長この中でいかに工夫をしてお客様にできるだけ不快な思いをさせないよう使っていただくかが大事だと思っています。

藤田所長空港はビルやエプロンの拡張エリアを持っていますが、まずソフトの部分での対応ということです。

【利活用のアイデアを】

▲駐車場側から見た庁舎・管制施設

委員海外からのお客様はどのくらいありますか。


森田所長8月末現在で利用者は15万人くらいで、うち3分の1が国際線ですので、この利用者が4万5000人くらい。外国人は国際線利用者の半分、2万3000〜2万5000人くらいと思われます。韓国の方が多くを占めていると思います。

委員ぜひ、この空港を利用して富士山を見て、伊豆の温泉につかって、東京ディズニーランドへといったルートを強力にPRしていただけるといいのですが。

森田所長川勝知事は空港の利活用について、一所懸命考えています。静岡県は観光資源が山ほどあり、いろいろな観光スポットがあるわけですから、うまくルートをつくってPRすれば売り込めるというご意見が多いですね。

藤田所長知事の号令一下、利活用のアイデアを出すようになっていますので、業界の皆さんからもアイデアを出していただければと思います。今、航空業界では、小・中型機を使ってネットワークを密にして組むというトレンドが始まっています。これからは静岡もそのトレンドに移っていくのではないでしょうか。

▲美しい初秋の空の下、3階の展望デッキから空港を眺める
▲ビル2階には搭乗者に静岡茶を無料でおもてなしするコーナーがある。同じフロアのみやげ物売り場では、静岡茶を250種類販売

委員アメリカのように地方同士の連携が増えれば利用率が上がると思うのですが。

藤田所長それは中・長期的なお話です。日本は鉄道や道路が発達しているし、国土自体狭い。ただ、国内線でジャンボジェットを運行しているのは日本だけです。小型機の運行については、日本は後進国といえるでしょう。

委員そもそも静岡県には航空の文化がありませんでしたから、これから関係者の一層の努力が必要ですが、利用者は増えてくると思います。


【見学者を搭乗者に】

委員無料駐車場はたいへん便利ですね。


藤田所長いつも200〜300台分くらいの余裕があります。駐車できなくて乗り遅れるということはありません。見学者も毎日300人以上は訪れますが、開港から3カ月たっても絶えません。こうしたことは今までなかった施設だと注目されています。

委員見学者がもっと落ち着ける場所があるといいのではないですか。見学者は搭乗したいという気持ちを持っていると思います。見学者を搭乗者に変えていくことができるといいですね。

藤田所長ベンチを設置しました。展望台には東屋(あずまや)もあります。徐々に改善していきたいと思います。

森田所長ビル会社でも開港直後は多くの見学者などの動線の観点から、ビル内のベンチを片付けていましたが、混雑具合を見ながら段々イスを置いていますし、これからも空スペースをうまく使ってイスを増やしていきたいと考えているようです。

委員空港敷地内に日本庭園を造って、お茶のサービスをしたりできるといいですね。しかし、茶畑が見えません。業界がボランティアでお茶の木を空港周りに植えるというのも、一つの手です。

藤田所長さまざまなアイデアが有識者会議でも出していただいています。しかし、庭園などはメンテナンスが必要となりますので、空港の施設とするのは難しいところがあります。また、経営の面からゴージャスな施設は困難です。


【空港は育てていく施設】

▲空港に隣接する展望広場には、あずまやも立っている。飛行機が飛び立つと拍手がわき上がることもあるそうだ



委員空港は国のものという意識が強いせいか、なかなか観光に結びつけようとか、協力していこうという意識があまりありません。意識を統一していく機関もありません。せっかく地域の核ができたのに、もったいないことです。こういうようにしたいという夢を描いてほしいものです。

森田所長われわれの任務は、まず安全・安心を確保するということです。この空港を日本一安全・安心な空港にする、その上で県民の皆さんに富士山静岡空港のさまざまな利点を知っていただき、利用者がどんどん増えて、活気あふれる空港になればと思います。

藤田所長子どもたち、中高年の皆さんにもっとご利用いただきたい。この空港は、これから使っていただき大きく育てていく施設なのです。

委員業界人は飛行機好きが多いですよ。海外の建築物などを見ると勉強になります。われわれもこの空港を積極的に利用して見聞を広げていきたいと思います。今日はありがとうございました。


▲空港内にあるパノラマで静岡空港管理事務所の武田豊主幹から説明を受ける ▲1455年に開かれた曹洞宗の寺、石雲院。空港展望台と合せて見学できる

【むかし牧の原に飛行場があった?】

富士山静岡空港の南、車で約10分、旧榛原町牧之原台地には、かつて大井海軍航空隊がありました。牧之原がもともと飛行機に縁がある土地だったのだ知って驚くばかりです。実は、われらが総務・広報委員会の原委員長が教えてくれました。「霧の中から戦闘機が飛び立った」そうです。富士山静岡空港の敵である霧を、戦時中は味方につけていたのでしょう。

現地に掲げられた案内によると、「1940年(昭和15年)4月この敷地内の小学校や200戸に及ぶ家並が立退きを指示され工事がすすめられて1942年(昭和17年)4月航空隊として発足」したそうです。

また「1945年(昭和20年)4月からは特攻訓練も行なわれ約3000名の隊員が居たことも記録されており、周辺には地下壕や洞窟も残って」いるということです。

正門門柱やレンガ塀なども残っています。

静岡県の戦史の1ページを開くものとして、空港を利用した際に、ちょっと立ち寄ってみてはいかがでしょうか。

8月に発刊された『静岡県の戦争遺跡を歩く』(静岡県戦争遺跡研究会著、静新新書)には、見所が紹介されています。未見ですが『大井海軍航空隊』(松本芳徳著、菊川資料ハウス)という本もあるようです。 大井海軍航空隊跡地 正門
▲大井海軍航空隊跡地 正門
大井海軍航空隊跡地 煉瓦壁
▲大井海軍航空隊跡地 煉瓦壁

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