ちょっと紹介特別編

遥かなる鉄路を目指して

渡辺建設株式会社

取締役社長 渡邉 雄二


愛読書は時刻表! 夢は「スジ屋」?

私の最初の愛読書は時刻表だと言って間違いないでしょう。幼少時、駅名が平仮名でも書かれているのを良いことに、連日貪るように眺め、東海道線の駅名を空で暗じ、皆を驚かせていたことが、我が鉄道遍歴の始まりです。

子供なら誰でも、一度は電車の運転手に憧れを持つものですが、私の場合は一風変わっていて、夢は国鉄で時刻編成をする人間、通称『スジ屋』と呼ばれる仕事に就きたいというものでした。

▲ 磐越西線を走る「SLばんえつ物語」。新津駅(新潟県)にて。

JR全路線踏破への決意

最東端の駅「東根室駅」(北海道)にて。GWとはいえ、道東はまだまだ小雪が舞う冬の様相でした。
▲ 最東端の駅「東根室駅」(北海道)にて。
GWとはいえ、道東はまだまだ小雪が舞う冬の
様相でした。

学生時代も、少しずつ鉄路の踏破を進めていましたが、自らの目標が定まったのは、社会人となって間もない頃、鉄道紀行作家の第一人者と呼ばれた故宮脇俊三氏の著作、『時刻表2万キロ』、そして『最長片道切符の旅』という二つの本に出会ったことによります。

前作は国鉄全線踏破までの様子を、そして後作は一筆書きのように連続した鉄路を乗り繋ぐ姿を、ルポ風に記載したものです。それぞれ氏独特の飄々としながらも、読み進むうちに景色が目に浮かぶような絶妙な筆致の連続で、鉄路への愛着が滲み出てくる名作です。

社会人となって間もない私にとって、『最長片道切符の旅』は時間的にもとても無理なので、『JR全路線踏破』を目指し、その目標に向け歩み出そうと決意しました。

本格的チャレンジは40歳代から

とは言っても、26歳で前社長の病気退任による社長就任を余儀なくされたことや、30歳で入会したJC活動などもあり、その目標は遅々として進みませんでした。しかし、40代となり、多少の時間的ゆとりが出て来たのを機に、本格的チャレンジを始めました。

小野田線本山支線長門本山駅(山口県)にて。廃止寸前のクモハ43型(昭和8年製造)の最後の雄姿。
▲小野田線本山支線長門本山駅(山口県)にて。廃止寸前のクモハ43型
(昭和8年製造)の最後の雄姿。

まず、それまでの自らの乗車記録を整理し、地図上に乗車済み路線を塗り潰します。そして、これまでの乗車キロ数を計算し、達成率を明示するという作業を繰り返します。今風に言えばまさに「見える化」。とは言っても、せいぜい年2、3回程度の旅ですので、なかなか進みません。

旅の醍醐味は名所・旧跡になし

旅の醍醐味は、その計画している時にあると私は思っています。夜寝る前時刻表を眺め、限られた時間内でどのようにより多くの路線を走破することが出来るか、一生懸命思案している時間が自らの至福の時でした。

ということですので、私の旅は早朝より終日ひたすらローカル線に乗り、流れる景色を眺めることの繰り返し。唯一の贅沢が、宿泊する地での名産を肴に、地酒をいただくことです。この瞬間のために、鉄路を走っているといっても過言ではありません。そのため、名所旧跡にも目をくれず、他人から見るとまさに阿呆にしか見えない代物だったでしょう。

しかし、松本清張の名作『点と線』ではありませんが、やはり終着駅に到着するのには、途中経過がなければならないのは必然です。時間も早く料金も安い飛行機では、決して同じ場所であっても、季節、天候により変わる景色には、途中出会うことはできません。まさに鉄路から眺める景色こそ、鉄道の旅最大のメリットと言っていいでしょう。

留萌線の終点、増毛駅(北海道)。我が寂しき頭髪に<br>思わず手が伸びてしまいます。ご存じ、高倉健主演の<br>名作「駅」の舞台となった地です。
    
                可部線のかつての終点三段峡駅(広島県)にて。広島湾に注ぐ太田川に沿って走る路線だったが、非電化区間はこの後廃線になってしまった。
▲可部線のかつての終点三段峡駅(広島県)にて。
広島湾に注ぐ太田川に沿って走る路線だったが、
非電化区間はこの後廃線になってしまった。
▲留萌線の終点、増毛駅(北海道)。我が寂しき頭髪に
思わず手が伸びてしまいます。ご存じ、高倉健主演の
名作「駅」の舞台となった地です。
木次線出雲坂根駅(島根県)にて。広島への県境の峠をスイッチバック<br>で登る前の一休み。
▲木次線出雲坂根駅(島根県)にて。広島への県境の峠を
スイッチバックで登る前の一休み。

最近、JR九州が導入する「ななつ星」などを筆頭に“乗って楽しい鉄道車両”がブームになっていることは同慶の至りであり、日本人の気質がようやく欧米並みにゆったりとした空間、時間を求める時代になったのかと感慨深いものを感じてなりません。

スイス・ユングフラウ鉄道クライネシャイディック駅からアイガーを望む。 ノルウェー、ソグネフィヨルドの寄港地フロム駅から一気に急坂を駆け<br>上るフロム鉄道の重連機関車。
▲スイス・ユングフラウ鉄道クライネシャイディック駅からアイガーを望む。 ▲ノルウェー、ソグネフィヨルドの寄港地フロム駅から
一気に急坂を駆け上るフロム鉄道の重連機関車。

リニア新幹線のスピード体感が最大の目標

生涯の目標とした、JR全線踏破、そして第三セクターをも含めた全線踏破も既になし終え、いささか茫然自失の感はありましたが、最近かつて訪ねた鉄路を、家内と共に再訪する旅を始めています。もちろん、当時と違い観光地も訪ね、それなりの温泉に宿泊するなど、ゆったりとした旅に終始していることは当然です。さらに海外旅行においても鉄道乗車が含まれているものを選び、日本とは違う景色を楽しんでもいます。

留萌線の終点、増毛駅(北海道)。我が寂しき頭髪に思わず手が伸びてしまいます。ご存じ、高倉健主演の名作「駅」の舞台となった地です。 完乗以降、新設のJR路線並びに第三セクター鉄道の再完乗をなし終えた、南阿蘇鉄道高森駅(熊本県)にて。
▲国内JR路線全線完乗の地、大船渡線気仙沼駅(宮城県)にて家内と共に。 ▲完乗以降、新設のJR路線並びに第三セクター鉄道の
再完乗をなし終えた、南阿蘇鉄道高森駅(熊本県)にて。

来年には還暦を迎えますが、新たなる路線開設のニュースが流れる度に、心が躍る気持ちは変わりません。何とか2027年に予定されているリニア新幹線に乗車し、そのスピード感を体感したいというのが現在の最大の目標です。