特別企画 普通の田舎体験がいい

特別企画 普通の田舎体験がいい
▲「あそびや」のふもとに県内初の農家民宿「たべや」。
二つは兄弟民宿として、お客さんの行き来も活発だ

浜松市天竜区熊(くんま)で、新しい形の旅、滞在を提案する静岡県で3番目の農家民宿「あそびや」。

ホームページには「見るだけの観光ではなく、田舎でのんびり過ごしながら農のある日本の伝統的な暮らしを体験する“滞在型の観交”で、心身ともにリフレッシュしていただけたら…」とうたっています。

さて、どのような「観交」なのでしょうか。

「あそびや」を経営する大平洋一さん、展子さんご夫婦にお話をうかがいました

(聞き手は静岡県建設業協会総務・広報委員会の清水充委員)


■きっかけはグリーンツーリズム

委員― 農家民宿として「あそびや」を始めた経緯を教えてください。


最初は「グリーンツーリズム」について勉強していました。これはある土地を通過点としてではなく、その地域にとどまって、文化や歴史などに対するいろいろな想いを、地域の人々と共感・共有できるような、想いと時間を互いに享受するものなのです。これを勉強していたときに、農家民宿がこれから必要になってくると思ったのです。

NPO法人夢未来くんまでは、約10年前から長野や豊田市へ視察に行き、農家民宿に泊まったりして勉強をしていました。そして「 許可を取得しようか」という話になったので書類を作成して提出しました。ところがいつまでたっても許可が出ない。「まだかなぁ」と思っていたら県にガイドラインがないことが分かりました。平成22年でした。

その代わり一般簡易民宿なら開業できるということでしたが、旅館の女将(おかみ)になるつもりはなかったので断ってしまいました。

でも、それから1年くらいかけて静岡県が条例を作ってくれて、担当職員の方がわざわざ天竜区の熊まで説明にいらっしゃったのです。平成23年の5月ころから、もう一度やってみようということで、消防や飲料水、保健所の許可などもらうための書類作成などをしました。翌年2月25日に静岡県で3番目の農家民宿としてオープンしました。

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▲農家民宿への思いを語る大平展子さん(左)と大平洋一さん

■喜ばれるのは普通の田舎の生活

委員―どんなことが体験できるのでしょうか。


体験といっても薪を割って風呂を沸かしたり、春だったら山菜を取ったり畑で野菜を収穫したりというものです。あとは山に行ってツルを取ってきて、かごを作るツル細工などもやります。

でも遊びにいらっしゃるお客様は、体験そのものが目的ではなくて、田舎に来たいっていう方が多いです。田舎の生活そのものに入るという感じですね。だから台所で一緒に田舎料理を作ったり、畑で取ってきた野菜を料理したり…。そういう体験が一番喜ばれます。

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▲ポップコーンの素になる乾燥したとうもろこし ▲山で採ってきたツルでかごをつくる

■実際に体験し感じる場

 印象に残っていることがあります。ことしの8月、家族連れで、小学校の男の子がクワガタを捕りたいと言っていらっしゃいました。主人が「デッキのところに電気を点けておけば夜中にきっと集まると思うよ。夜中の1時と3時に起きて電気のところに集まる虫を見てごらん」と言ったのです。男の子は1時にお母さんに起こしてもらったのです。でもお母さんは次の3時に起こすのを忘れてしまいました。朝起きたら男の子がプンプンに怒ってしまいました。主人が男の子にミヤマクワガタを手渡しました。

実は、夜中の2時半ごろに起きて行ったらミヤマクワガタが電気のところにいたのでそれを捕まえていたのです。男の子は、クワガタに名前まで付けて持って帰りました。

数週間後,お母さんから電話をいただきました。「ミヤマクワガタが死んじゃった後も標本を作って学校へ持って行った」とお話ししていました。

この経験をするまでその子は、むやみに虫を捕ってきていたそうです。捕ってくるだけ捕ってきて、世話をしないものだから、お母さんは閉口していたらしい。でもクワガタが死んで以来、虫は捕ってこなくなったようです。小学校3年生ながら、きっと自分の中で何か変化があったのではないでしょうか。生き物の命を大事にしなければならないということなどが分かったのではないでしょうか。この農家民宿というものが、実際に体験して、感じることができる場所を提供することにもなっているのかなと思います。

■昨年は90人が来訪

委員―訪れる方はホームページを見てくるのでしょうか


ホームページを見て来たと言う人も、口コミで来たという人もいます。この間はテレビを見たとかでね。テレビ取材で手品師のマギー審司さんがいらっしゃったこともありますし、雑誌にも少し紹介されました。テレビでちょっと映っただけで、すぐに問い合わせがあったりするものですから、メディアというのはすごいですね。

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▲宿泊客が各々の想いをつづるノート。

日本語のほかに英語、フランス語などでも記述が

委員―今まで何人くらいのお客さんが来たのでしょうか。どういう客層が多いのでしょうか。

 去年は90人くらいの方がいらっしゃいました。日帰りというか、お昼だけという方もいらっしゃいましたから、だいたい年間100人くらいかな。ことしの方が去年より多いと思います。静岡県では農家民宿としては開設が早い方だったので、県の方々に農家民宿の研修ということでお出でいただいたりもしました。

お客さんが訪れる時期は夏休み、それから5月の連休がピークですね。家族連れが圧倒的に多いです。小学生の子どもを連れた家族連れと、中高年のお友達とかご夫婦。地理的には、まだあまり遠くからいらっしゃらなくて浜松、磐田など近辺が多いようです。中には一人で神戸からとか、東京からいらっしゃったとかもありますが。

■夢は「民宿村」

委員 ― 今の生活にないようなものが珍しい、感動するのでしょうね。


 そうですね。例えばお客さんがお泊りになる部屋。この部屋には最初、鍵が掛かるようにしようと思っていましたが、今のままがいいと鍵は付けませんでした。農林漁家の民宿は、初期投資を抑えられるということが大前提なのです。

 規制緩和措置でね。小規模民宿、農林漁家が副業としてやる小規模民宿の定員の最高は9人です。このような規定がある。だから台所も居間もお風呂場もこのままでいい。改造しなくていいということになりました。

全国的にも農林漁家民宿はすごく多いのですが静岡県はそれがなかったのです。

静岡県はホテル、民宿の数が全国一多い。だから農林漁家民宿というものの需要がなかったのでしょう。当初は静岡県の職員でさえ、農林漁家民宿が県内に無いということをご存知なかったほどですから

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▲和室・洋室と言われるようになったのはいつの頃からだろう・・・

 今後は阿多古筋がどんどんにぎわって、農家民宿とか林家民宿が増えて民宿村みたいなものができたらいいなと思っています。


兄弟農家民宿 くんま 遊楽亭 ( ゆうがくてい )

お問い合わせ 電話・FAX<053>929-0050
http://yugakutei.jp

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