ちょっと紹介特別編

俳句は日本の良さを表す文芸

中村 信吾(中村建設代表取締役)


本棚には俳句関係の本も置いている
▲本棚には俳句関係の本も置いている。

市民文芸大会入選に「面白いなあ」

本当に俳句を最初に作ったのは中学生の時でした。担任の国語の先生が生徒みんなに「作ってみたら」と勧めたからです。

また、大学時代、浜松市の市民文芸大会の募集がありましたので、投句したところ入選しました。選者は原田濱人、相生垣瓜人 百合山羽公というそうそうたる先生方でした。その時の句は、「早子(はやこ)らが息の白きをためしをり」という句です。早朝、子どもらがはぁーと息を吐いて白くなるのを試しているという様子を詠んだものです。選ばれて「面白いなあ」と思ったのがきっかけです。

もともと親父(前社長の中村一雄)がやっていたというのも一つありました。親父は朝日新聞の俳壇に入選するくらいの腕前がありました。

先生を亡くして“俳句難民”

本格的に結社に入って俳句を作りだしたのは、40歳くらいの時です。

結社は『木語(もくご)』という名前で、主宰は山田みづえという方でした。先生には「悪女たらむ氷ことごとく割り歩む」という素晴らしい句があります。国語、国文学の素養のある先生で、当時の女流俳人の20傑くらいに入っています。先生の父上は、国語学者で著名な山田孝雄(よしお)、兄上も同じく国語学者の山田忠雄(ただお)という方です。

私は、この結社に20年くらい所属していました。毎月5句を投句して先生に選んでいただいていました。そこで新人賞の次の一席を取ったこともあります。

先生が磐田や浜松に来られた時は句会に出ました。会社の会議室を使って句会をしたこともありました。

しかし、先生が80歳少し前に体調を崩されたので、『木語』は廃刊になりました。私は先生を失い、いわば“俳句難民”となったのでした。

青竹の会の句評
▲「青竹の会」の平野先生の句評「青竹作品反芻」。一番初めに私の作品が評されている。

俳句の短大、高校として「青竹の会」

その後、どこの結社も入ることなく、職場の皆さんや知り合いの皆さんと「青竹の会」という句会を、3カ月に1回くらいのペースで会社の会議室で開くようになりました。

私が主催し、先生には静岡県俳句協会会長の平野摩周子氏を招いています。平野先生は、たまたま山平建設OBの方でしたので、お願いしたところ、お引き受けいただいたものです。

会の名前は、初め、「若竹」がいいと思ったのですが、その名前のものがたくさんあったので、縁起のいい「竹」と、青年の「青」で、「これからの未来を見よう」という気持ちで付けました。

メンバーは今35人くらいです。50人くらいにしたいと思っています。

私は、俳句の結社というものは、いわば大学院に当たると思うのです。では、もう少し初心者向けの短大とか高校があってもいいのではないかと、愛好会としての句会を始めたのです。

かれこれ8年続けています。あと2年で10年目を迎えます。10周年の記念で合同句集を出したいと考えています。

手帳にびっしりと書かれた俳句
▲俳句は句帳ではなく手帳に記す。細かな字で、びっしりと俳句を書き留めている。

月に14~15句

俳句はとても毎日はできません。月に14~15句をつくり、『俳壇』という俳句雑誌に投句します。また、全国の俳句のコンクール、例えば俳人協会の大会にも投句したりします。

句帳は使いません。手帳に書き留めるようにしています。

土、日は、歳時記を持って佐鳴湖の周りを歩いて題材を探すこともあります。一人の吟行(屋外に出て句材を探して俳句を作ること)といいますか。

好きな句と自作いくつか

好きな句をいくつか挙げます。

光堂より一筋の雪解水 有馬朗人
こほろぎのこの一徹の貌を見よ 山口青邨
湯豆腐やいのちのはてのうすあかり 久保田万太郎

第2句集『湖南』
▲第2句集『湖南』。平成13年から22年までの作品を収めた。
有馬朗人先生には帯文を頂いた。

有馬先生は、高校の大先輩です。物理学者で文部科学大臣も務められました。静岡文化芸術大学理事長でもあります。俳句結社『天為』の主宰です。

山口青邨も科学者で、「たんぽぽや長江濁るとこしなへ」という有名な句があります。

久保田万太郎は、有名な作家・劇作家です。「神田川祭りのなかをながれけり」という句があります。

次は私の俳句です。


たんぽぽの隣に腰を降ろしけり
座の中の蠅一匹に総がかり
帰省子の三人そろふ夕餉かな

これらは、いずれも投句して特選に選ばれたものです。

自分でいいと思って投句してもダメ、かすりもしないということがある一方で、これが特選になったと自分が驚くこともあります。

「たんぽぽ」の句は、俳人の山本洋子先生に選んでいただきました。「たんぽぽと同じ目線」がいいということでした。自分がいいと思ってダメだったのに「月下美人ポーカーに酔いしれし刻」という句があります。かすりもしませんでした。

自信作というか気に入っている句も紹介します。

老犬のひつそり逝くや霜の朝
春雪やザルツブルクの月の坂

もう一冊くらい句集を出したい

好きな季語は「たんぽぽ」と「月」です。月には表情が40通りあると言われています。

俳句は世界で一番短い詩です。五七五という短い言葉に閉じこもった中に、逆に広がりを見せる。日本の良さが表われた文芸です。

私は俳句をやっていて良かったと思っています。仕事はもちろんきちっとしますが、仕事だけでは詰らないですから。

ことし11月に会社は60周年を迎えます。親父も句集を出したかったと思い、遺句集をまとめることにしています。

これからも身近で分かりやすく説得力のある句を作っていきたいと思っています。『引佐細江』『湖国』に続き、もう一冊句集を出したいというのが願いです。