▲提供:富士教育訓練センター |
富士山西麓、標高900メートルにある富士教育訓練センター(富士宮市根原)は、職業訓練法人全国建設産業教育訓練協会(才賀清二郎会長)が運営する教育訓練施設です。天気が良ければ大きく富士山が眼前に立っています。今、建設産業の人手不足、担い手確保という大きな課題が目の前にある中で、建設産業界挙げて設立した、この施設が広く注目されています。施設の充実を図るため、本年度から建て替えがスタートする予定です。これを機会に菅井文明専務理事にインタビューをしました。(聞き手=原廣太郎総務・広報委員長、三尾祐一委員)
▲インタビューする原委員長と三尾委員 |
嘆願書で施設を存続
▲看板 |
富士教育訓練センターは、もともと建設省建設研修所中央訓練所といい、産業開発青年隊の教育訓練施設として昭和38年に設置され、平成7年度まで建設大学校朝霧校として使用されていた。
「朝霧校が閉校されて、施設も壊して更地になろうとしたところ、専門工事業団体が集まり、教育訓練施設として残してほしいと嘆願書まで出しました。建設省(現国土交通省)はじめ多くの方々のご支援、ご協力を得て、建設業振興基金が払い下げを受けました。そして、全国建設産業教育訓練協会が施設を借り上げることで、平成9年3月に開校式、4月から教育訓練が始まりました」
敷地面積は、約5万1,000平方メートル。施設は中央訓練所以来のもの。建設機械の実技も行える広いフィールドがあることが大きな特徴だ。
また、宿泊施設もあり218人を収容できる。200人以上を収容できるものの、最近では4~5月には、新入社員教育のニーズが多く、400人もの受講生があり、近隣の宿泊施設も利用しなければならなくなっているという
大食堂では、ゼネコンも専門工事業も、社長も社員もセンターの講師も、さまざまな所属、立場の人々が釜の飯を同じくする。
お酒も飲めるようにスナックもある。「コミュニケーションがとれる場ができて、作っておいて良かった」という。
累計利用者は13万人
コース数 | 受講人数 | 参加企業数 | 教育訓練人日数 | |
---|---|---|---|---|
平成18年度まで | 2106 | 49428 | 15802 | 288407 |
平成19年度 | 392 | 11741 | 5052 | 39565 |
平成20年度 | 451 | 14323 | 5224 | 37765 |
平成21年度 | 484 | 14561 | 5133 | 35913 |
平成22年度 | 449 | 12027 | 5336 | 39798 |
平成23年度 | 374 | 9906 | 3416 | 34524 |
平成24年度 | 415 | 10141 | 4073 | 38895 |
平成25年度 | 420 | 13796 | 6405 | 44608 |
合計 | 5091 | 135923 | 50441 | 559475 |
国内 | 133733 |
外国人 | 2190 |
「初めは2年でつぶれると言われましたが、2年経ち、5年経ち、ことしで18年目を迎えています。初代の専務理事は、本センターでの受講者を富士山の標高にちなんで3万7,000人を目指しました。時代時代の背景の中で右肩上がりに受講者は増えて、11年目で3万9,000人となり目標をクリアしました。平成25年度は1年間で1万3,796人という受講者数になっています。設立以来の累計は13万5,923人、参加企業は延べ5万社を数えています」
▲センターでは、ほとんど休みなく |
教育訓練コースは毎年度約400コース、受講者は1万人を超え、参加企業数も平成25年度には6,000社を超えている。
設立以来のコース数は5,091、受講者は13万人、参加企業数は5万社、教育訓練人日数(1日に使用した人数の総計)は何と55万9,475人日に上る。=グラフ、表参照= なぜ、これだけ受講者が増えたのだろうか。
9割がオーダーメード教育
▲実施している技能講習の種類 | ▲鉄骨の立て方実習 |
「職業訓練校の運営が苦しくなるのは、既存の教育訓練だからだと考えられます。本センターの教育訓練の9割はオーダーメードなのです。つまり業界、企業のニーズに応じた教育をしているということです」
「オーダーメードの教育訓練を行うに際しては、事前に実施時期や期間、内容を確認します。仕事が忙しくない時期に実施できる上、土曜、日曜も行います。内容はニーズに基づいたカリキュラムを編成します。訓練期間中には、カリキュラム以外の補習・補講も行いますし、修了後には派遣企業を訪問して教育訓練の効果を確認したり、訓練期間中の観察結果による企業との懇談も実施します。こうした取り組みにより『多様化するニーズ』に対応し、企業と個人を支援しています」
センターでは「業界ニーズ」だけでなく、「即戦力」「安全管理」も合わせて教育訓練のねらいとしている。
「即戦力」は“就職予備校”という位置付け。まず新入社員には、全寮制による団体生活で社会人教育を施すとともに、基礎的な技術・技能の教育訓練を実施。さらには必要な資格の取得もできる。また既に就職している者、中堅社員以上には、多能化の促進や即成果への対応、技術・技能、管理能力の向上を図る。もちろん資格取得も可能だ。
▲安全な教育訓練の重要なねらい |
センターを利用した多くの人たちが指摘するのが「安全管理」ではないだろうか。
毎日の朝礼で服装点検・指差呼称・挨拶訓練を行い、実技訓練では危険予知活動(KY)、作業ごとの安全確認を実施する。「実技を重視した教育訓練により身体にマスターさせ、習慣化を図っている」という。
▲静岡県建設業協会理事も視察 |
地域人づくり事業も展開
「平成26年度の新たな取り組みとして、厚生労働省の補正予算1,020億円を活用した『地域人づくり事業』で、各都道府県との連携事業を進めます。各都道府県が予算立てをして、女性や若者、高齢者の雇用拡大・処遇改善を促進するために創設されたものです。岩手県、埼玉県、神奈川県、山梨県、新潟県、愛知県、三重県、岐阜県から事業を受託する予定です。そのほかの県からの要請も受け付けています」
中核センターの役割追求へ
▲施設の完成予想図 |
▲ここに新しい施設が建設される |
建設産業の担い手不足という背景に、昨年12月に国土交通省がまとめた「富士教育訓練センター充実強化の具体化に向けた検討委員会報告」で、「建設産業の将来を担う中核的な技能労働者や技術者の確保・育成、若年者の建設産業への入職を促進するための広域的職業訓練施設として、施設の建替・充実強化を促進する」と位置付けられた。
新施設の規模は、本館・教室棟・食堂棟合わせて建築面積が2,550平方メートル、延べ床面積が5,790平方メートル、宿泊棟(女子寮・講師寮・研修生寮・浴室)は建築面積が1,640平方メートル、延べ床面積が4,200平方メートル、技能実習棟が750平方メートル、延べ床面積が750平方メートルで計画している。総事業費は30億円。
「センターは建設産業の“城”とも言えるものです。50年、100年も教育訓練を続けていくためにも素晴らしい建物にしたいのです。ことし9月に施工者を決めて、冬場にも着工します。教育訓練のスケジュールに支障を来さないように工事を進めて、平成27、28年度の2年間をかけて建設し、29年4月に新施設の開校を予定しています」
「静岡県内にある施設であり、地元静岡県の皆様にも建設に参加していただきたいと考えています。もしも、地元の皆様にも仕事をお願いするような場面がありましたら、ぜひ、ご協力を願います」
▲高校生と語る太田大臣 |
昨年7月に太田昭宏国土交通大臣が、今年6月に髙木副大臣が訪れた。また、7月には東日本保証会社の三沢社長らが、静岡県建設業協会理事一同が、全国中小建設業協会役員一同が訪問した。広く注目を集めるセンターの教育訓練。建設産業の担い手確保に向けて、今後、ますますセンターの役割が大きくなることに間違いはない。