山間の地、浜松市天竜区春野町の地産品といえば、お茶や自然薯、椎茸など。そんななじみ深い地産品に、近い将来あの高級食材「キャビア」が加わりそう。浜松市天竜区春野町で新たな産業の可能性を追求する、金子コードの取り組みをレポートします。

キャビアを生み出すチョウザメの養殖を春野町で始めたのは、電話コードや医療用カテーテルのメーカーである金子コード(東京都大田区)。全くの異業種ですが「売上確保のための事業の柱がもう一つ必要」と社長が判断し、ゼロの状態から新規事業の芽を探し歩いたといいます。そのうちに、飲食関連事業は人がいる限り需要が無くならないと考え、中でも高級食材のキャビアが採れるチョウザメの養殖に着目したそうです。春野町を選んだ理由は、同社主力工場が浜松市北区にあり距離が近いこと、気田川漁協の協力が得られたこと、水質が良いことなどを挙げています。

養殖場「ハルノキャビアバレー」の看板と養殖担当の社員
養殖場「ハルノキャビアバレー」の看板と養殖担当の社員

チョウザメはいまや自然界で絶滅危惧種となってしまった淡水魚。サメ科と勘違いされますが、チョウザメ科で、サメのような鋭い歯はありません。卵から孵化した体長3ミリの稚魚は、3年目で雌雄が判別できるようになり、7年ほどで体長1~1.2メートル、体重は7~8キロにまで成長し、やっと卵=キャビアが採れるようになります。チョウザメは卵巣ごと採卵するため、1尾のチョウザメにつき一度だけしかキャビアを採ることができないのだそう。日本では約20年前から養殖が開始されました。
 同社は2014年12月に気田川漁協養殖池でチョウザメ稚魚1000尾の養殖を開始しました。異業種から参入した同社、当然初めてのことばかりで苦労も多くあります。幼魚を大量に死なせてしまったこともありましたが、「諦めなければ失敗はない!」という姿勢で新規事業と向き合ってきた、と振り返ります。現在は自社養殖施設「春野キャビアバレー」を稼働させ、5000尾のチョウザメ稚魚の養殖を進めています。

成魚は体長1~1.2mにまで成長する
成魚は体長1~1.2mにまで成長する

同社が春野町で開始した養殖業への挑戦が、さまざまな効果や影響を生んでいます。
 「HAL PINOT」という名の東京・麻生十番のレストラン。同社がチョウザメの魚肉を提供するアンテナショップとして機能する店を、と開店した直営ワインレストランです。2015年10月に開店し、好評を得ているそう。白身でヒラメやタイに似た食感のチョウザメは今後需要開拓の可能性を秘め、レストランやホテルへの卸展開拡大も視野に入れています。
 新たな地域産業として、雇用創出にもつながっています。2015年には養殖の経験者、2016年には新卒者を採用し、彼らが「春野キャビアバレー」の養殖事業を支えています。

現在は魚肉の生産体制を整備している
現在は魚肉の生産体制を整備している

6~7年後に採れるようになる「春野産キャビア」と、チョウザメの魚肉。まずは養殖によって生産できるこれらの食品の価値を、多くの人に知ってもらうことが、同社が今後目指すところです。
 また、養殖の現場においては、将来的には自社でチョウザメの卵を孵化させ稚魚を育てる「完全養殖」体制を目指し、稚魚や幼魚の販売や、地域に養殖業の拡大を図るところまでを視野にいれているといいます。
 さらに、高級食材の養殖のノウハウを他の食材にも応用できるのでは…と、チョウザメの養殖へのチャレンジが同社事業の可能性を大きく広げているところです。

「世界一おいしいキャビア」づくりを目指し、挑戦を続ける
「世界一おいしいキャビア」づくりを目指し、挑戦を続ける