大正末期から昭和戦前にかけ、東京で政変が起こると、興津のまちは、緊迫感に包まれました。

 特急列車が興津駅に臨時停車し、天皇の使者が西園寺公望公の別邸「坐漁荘」を訪れ、後継首班人選の下問が伝達されるのです。

 西園寺公は直ちに上京。特急が臨時停車する興津駅の引き込み線には、白線の入った一等車の車両が、公を待っていました。

 「興津詣で」と称され、訪れる政府要人が後を絶たなかった「坐漁荘」ですが、今は明治村(愛知県犬山市)に移築され、国の登録文化財として公開されています。

 現在の静岡市清水区興津にある「興津坐漁荘」は、2004年(平成16年)に、できる限り忠実に復元された建物です。

◇◇ 西園寺公望公(1849~1940) ◇◇

 西園寺公望公は、1849年(嘉永2年)、右大臣徳大寺公純の二男として生まれ、明治・大正・昭和の時代を自由主義の政治家として貫いた我が国元老の一人。現在の立命館大学の学祖です。

 元老とは、近代日本特有の政治的存在で、重要施策、特に後継内閣の推挙について、天皇の諮問に応える強力な発言権を持つ重臣の呼び名のことです。

 1924年(大正13年)7月の松方正義公の死後、西園寺公は、ただ1人の元老として、内閣首班の推挙や政変ごとの陛下のご下問への奉答をしてきました。

 「興津坐漁荘」は、1919年(大正8年)、70歳になった西園寺公が老後の静養の家として、興津清見寺町に建てた京風の純和風建築の別荘です。

 1916年(大正5年)の冬、興津を訪れた際、気候温暖で、風光明媚な清見潟が気に入り、別荘を建てることを思い立ったと言われています。

 設計は住友本社の建築技師・則松幸十が行い、京都から大工を呼び寄せ建築しました。規模は木造2階建て延べ460平方㍍、公が好んだ竹の欄間の精密な造作をはじめ、優れた職人技が凝縮されました。国道に面した外塀は風雅な舟板造りでした。

 居間からは、遠くにかすむ伊豆天城の連峰、目前には三保の松原が見渡せ、砂浜の漁船や干し網の近景が庭越しに広がっていました。
 しかし、実際の坐漁荘は「興津詣で」と称された通り、訪れる政府要人が後を絶ちませんでした。

 「坐漁荘」の名は、子爵渡辺千冬の命名。周の文王が呂尚(太公望)が坐漁する場に会い、礼厚く迎え軍師にしたという中国の故事に因るものとの説があります。

◇◇ 西園寺公の死、その後の「坐漁荘」 ◇◇

 1940年(昭和15年)11月24日に坐漁荘で西園寺公は死去。12月5日、国葬が執り行われ、その後、世田谷の西園寺家墓地に葬られました。

 坐漁荘は、高松宮殿下に献上されましたが、終戦後、徳川家を通じて西園寺公一氏(公望公の孫)に戻されました。
 公一氏は、豪州のバイヤーに売却、その後、英国大使館参事官が買い上げ、1951年(昭和26年)、財団法人西園寺記念協会が設立されました。

 建物の傷みが激しくなった1968年(昭和43年)11月、明治村への移転の話がまとまりました。跡地は公園にして記念碑を建て、地元が記念館を建設する時は、当時の清水市が相談に乗ることも合意されました。

 1969年(昭和44年)10月、家具や調度品が運び出された後、建物を測量、記号をつけて解体し、翌年6月、明治村3号地に移転復元されました。

◇◇ 現在の「興津坐漁荘」 ◇◇

 西園寺記念公園として維持・管理されていましたが、1999年(平成11年)10月、清水市内の経済人ら11人による「世話人会」が清水市と市議会へ要望書を提出。2000年(平成12年)、官民一体の取り組みを始め、清水市は予算化検討を開始しました。

 この建物の歴史的経過を踏まえ、歴史的文化財として、もとあった地に、できる限り忠実に復元されることとなりました。

 2001年(平成13年)基本設計が完了し、2002年(平成14年)に工事着手、2004年(平成16年)3月竣工、4月25日にはオープニングセレモニーが行われました。

 移築時に作成した図面をもとに、西園寺公が好んだ竹の欄間の精密な造作をはじめ、優れた職人技が凝縮された建築物です。

玄関
玄関
「興津坐漁荘」入館料 無料
♢所在地 静岡市清水区興津清見寺町115 興津坐漁荘
♢電話 054(369)2221
♢開館時間 平日 午前10時~午後5時
土日祝 午前9時30分~午後5時30分
♢休館日 毎週月曜日(祝日の場合はその翌日)
年末年始(12月29日~1月3日)
*館内での飲食・持ち込みはできません
♢建物概要  
 敷地 1009㎡
 規模 純木造数寄屋造り2階建て延べ296㎡
 主屋・展示棟、受付棟
 1階 玄関 畳廊下 居間 次の間 広縁 応接室・暖炉
テラス 化粧室 上湯殿 坪庭 女中寮 内玄関 台所
 2階 居間 次の間 納戸 広縁
◇交通のご案内
 JR清水駅からバス三保山の手線「清見寺前」下車
 JR興津駅から徒歩15分
 駐車場あり

門
アプローチ
アプローチ
石碑1 石碑2
石碑1
石碑2
玄関(内部) 外壁 廊下 奥は畳廊下
玄関(内部)
外壁
廊下 奥は畳廊下
応接室 居間
応接室
居間
台所 上湯殿
台所
上湯殿
2階鴬張りの廊下 2階次の間~居間 2階広縁
2階鴬張りの廊下
2階次の間~居間
2階広縁