取材に応じてくださる丸田誠教授 |
2017年4月、静岡理工科大学(袋井市豊沢2200ノ2)に静岡県下の大学で初となる「建築学科」が誕生した。建築の道を志す学生の多くが県外に流出していた現状を踏まえると地元企業の期待は大きい。建築学科長の丸田誠教授に、設立の経緯や特徴、建設業界と協同の在り方について聞いた。
地元袋井建設業協会・岡野良隆会長、浜松建設業協会・杉浦政紀理事も出席しお話しを伺った。
(聞き手:静岡県建設業協会総務・広報委員会 佐野茂樹委員長、三尾祐一副委員長、西島正浩担当委員)
1984年千葉大学大学院工学研究科 建築学専攻修士課程修了。同年鹿島建設に入社。2010年に島根大学理工学部教授に就任し、16年に名誉教授に。現在は、静岡理工科大学建築学科の学科長を務める。「新しい構造材料を用いた鉄筋コンクリート建物の耐震研究」を行っている
左から、袋井建設業協会岡野会長、県建設業協会総務・広報委員会佐野委員長、西島委員、三尾副委員長、浜松建設業協会杉浦理事 |
佐野委員長 |
新学科設立の経緯、学科の特徴などを教えてください。
県内に建築を学べる学科が無いため、地元建設業者や設計業者、自治体などから設立を求める要望が多くありました。また、建築を学びたいお子様を持つ保護者の方々からの期待も高く、建築学科の新設を決めました。
4月に新入生を迎え、1期生68名が在籍しています。4年後には約200名の学生が在籍する見通しです。
1期生の内訳は、男性が57名、女性が11名です。特筆すべきは68名中65名が静岡県内出身者であるということです。
出身別にみると、県内西部地区が29名、県内中部地区26名、東部地区10名となっています。
学生が建築に興味をもったきっかけは様々あるようですが、とても元気が良くはつらつとしているのが印象的です。
教員については、現在は4名ですが、来春には9名体制を予定しています。
学科の特徴は、少人数教育です。
他の私学と比較しても、学生の数に対して教員が多いと思います。また自身で設計事務所を構えていたり、前職で大手ゼネコンや設計事務所に長く在籍していたりと、実務経験が豊富な教員をそろえることができました。これも他大学には無い特長です。
建築には、①建築意匠・計画分野②建築構造・材料分野③建築環境・設備分野―の3本柱がありますが、建築学科では①を4名、②を2名、③を2名という分担で配置し、教えていく方針です。
彼ら彼女らの興味・関心を広げ、本人が希望する方向に導いていくのが教員の使命だと感じています。
そのためにも、学生達が一級建築士や二級建築士、施工管理技士、インテリアプランナーなどの資格を取得できるようサポートしていく考えでいます。
想定している就職先には、建築会社や設計事務所、住宅メーカー、官公庁などを考えています。
防災や省エネルギーといった観点も兼ね備え、世界で地元・静岡で活躍してくれる人材を育てることができれば幸いです。
建築学科棟の館内案内図。 施設は既存建物と調和させるため曲面になってる。 |
今年2月に完成した建築学科棟について教えてください。
建築学科棟「えんつりー」の建設に当たっては、コンペを開催し、古谷誠章先生とNASA(ナスカ一級建築士事務所)に設計を依頼することにしました。
建物が教材となるよう、随所に工夫が散りばめてあります。
施設を支える樹木状の柱はもちろんのこと、地域材・天竜杉を使用したルーバー、むき出しの鉄骨ブレースからは、溶接部分やボルト部分を観察することができます。
また、配管を見えるように配置したり、各階に地震計を設置、照明照度に緩急を持たせるなど、座学だけでなく見て触れて学ぶことができる施設になっています。
建築学科棟「えんつりー」館内の様子。 |
【静岡県理工科大学建築学科棟 施設メモ】
♦工事概要/鉄骨造4階建て延べ3520平方㍍(ブレース付きラーメン構造)
♦施工者/建築―鈴与建設 電気―関電工 機械―菱和設備
♦設計/古谷誠章 NASCA(ナスカ一級建築士事務所)
♦各階/1階―製図室・講評室 2階―普通教室・アクティブラーニング室・PC室 3階―教員室・ゼミ室 4階―研究室 など
土木事業が専門の建設業者も多くあります。建築は仕事がきれい、土木はきたないというイメージが定着しており、土木学科を志望する学生・生徒が減少してきている。静岡県内に土木を学べる大学が無く、圧倒的に人手不足になっている現状があります。
現在、日本全国で土木技術者の減少が続いています。市や町の土木職員を集めることすら困難になってきています。
本学科では、建築に興味を持って入学してきた学生がほとんどだと考えています。
しかし、前任校の島根大学では建築学科に入って後に土木に興味を持ち、土木系コンサルに就職した女子学生もいました。
建築学科ではありますが、私が専門としているような大規模な鉄筋コンクリート構造物やコンクリート系材料などは土木と切っても切れない関係にあります。
ダムや河川といった水理分野を扱うのは難しいですが、学生の中に少しでも土木に興味をもつ学生がいたら可能な限り就職も含め、力になっていきたいです。
構造実験棟で研究テーマについて語る丸田教授。 後方の装置は高性能鉄筋コンクリート梁の耐震構造実験を行うためのもの。 |
建築学科と静岡県建設業協会との今後の協同についてお聞かせください。
現在は1年生しか在学していませんが、学生たちが2~3年生になるころにはインターンシップという形で実際の現場を訪問させたいと考えています。現在でも、現場見学は随時、行いたいと思っています。
教室を出て施工中の現場を見ることで、スケール感など多くの気付きが得られるはずです。建築の現場に限らず、ダムや橋梁といった土木分野の現場もお邪魔できれば学生たちの刺激となります。
建設業協会におかれましては、学生達が見たこともないような「これは」という現場をご提案いただけると大変ありがたいです。
これを機会に、当校と建設業協会とのネットワークが広がることを願っています。
取材を終えて。今後の交流が期待される。 |