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取材に応じてくださる丸田誠教授
浜松市上下水道部 管理者 寺田賢次氏

 浜松市は、2018年度から西遠浄化センターの運営にコンセッション方式を導入することを決めた。民間の力を活用し、全国でも初となる取り組みで注目される今、浜松市上下水道部の寺田賢次管理者に現状と課題、将来への展望などについて話を聞いた。
(聞き手:静岡県建設業協会総務・広報委員会 佐野茂樹委員長、山口樹委員)

■普及と維持管理、採算確保のバランスに奮闘

佐野委員長
旧住吉浄水場配水池(外観)
写真提供:浜松市上下水道部
佐野委員長
旧住吉浄水場ポンプ室(内部)
写真提供:浜松市上下水道部

委員 まず初めに浜松市上下水道部が進めている事業の概要について伺います。

局長 上下水道部は西遠処理区や中部処理区など市内11の処理区を管轄し、全体計画面積1万7358㌶のうち、16年度末までに1万3994㌶の整備を完了しました。下水道の人口普及率は約80%です。
05年の12市町村合併により、浜松市は国内で2番目に広い市となりました。沿岸部から山間部に至る市内全域を管路で面的にカバーしつつ、事業全体で採算を高めていくことの困難さは常に実感しているところです。
現在は事業の柱として、老朽管渠やポンプ場などの施設の長寿命化、管路の耐震化、下水道の普及促進、雨水の排水対策などを掲げ、整備を進めています。

委員 上下水道部住吉庁舎のある旧住吉浄水場施設群は、登録有形文化財にも指定されていますね。

局長 おっしゃる通りです。旧住吉浄水場の完成は1931年で、旧浜松市一円を対象に水道用水や工業用水の需要に応えてきました。ポンプ室などは戦火をくぐり抜け、今も往時そのままの姿であります。毎年4月の桜の時期には場内を開放し、100本以上ある桜を市民の皆さまに楽しんでいただいています。

■民間の自由度を活用するコンセッション方式を導入

委員 では、注目される西遠浄化センターの運営計画について教えてください。

局長 2018年4月から浜松市は、下水道施設で全国初のコンセッション方式を導入します。対象は西遠処理区の西遠浄化センターと浜名、阿蔵の中継ポンプ場です。特別目的会社の「浜松ウォーターシンフォニー」が、料金徴収や維持管理などを行います。
 民間の力を活用することで事業の効率化を進め、コスト削減の効果を見込むことができると考えています。加えて、汚泥や余熱、小水力発電など、保有資産を活用した付帯事業や任意事業にもさまざまな可能性があり、今後の展開に期待しているところです。 

建築学科棟の館内案内図

委員 コンセッション方式は海外では一般的なのですか?

局長 海外では盛んですね。例えばイギリスでは水道事業を全て民営化しています。ただし、国が規制機関(オフワット)を置いて常時監視するという方式で、利用料金もコントロールしています。
 一方、フランスはコンセッション方式や、維持管理のみを専門に行う機関を置くアフェルマージュ方式が主流です。小さな事業体は直営が多いのですが、大きな事業体になるほど先述の手法を採り入れているケースが見られます。
 コンセッション方式は、民営化と委託との中間というイメージ。浜松市の場合は、コンセッション方式をそのまま採用した訳ではなく、しっかりとリスクをコントロールできる形でカスタマイズし導入しています。最終的には、市民が安心して上下水を利用できる環境を維持していきます。

構造実験棟で研究テーマについて語る丸田教授
佐野委員長(右)、山口委員(左)

委員 上水道にもコンセッション方式を採用する予定ですか?上水では、安全面で危惧される点も多いようですが。

局長 上水道は今年度に1年をかけて、資産調査やリスク対応体制のあり方などを調査しています。
 上水道は下水道に増してリスク要件が多く、より慎重な判断が求められます。水質面では、水道法に 51項目の水質基準があり、これを最低限の要求水準としながら、日常的に私ども上下水道部が監視していくこととなります。

委員 浜松市の取り組みが、今後は全国のモデルになっていくと思われますか?

局長 これはあまり意識していません。市民にとっては確実な運営こそ全てに優先されるはず。効率性を高めて市民にプラスになることを増やし、還元していく必要があります。
 今後は管路や施設が老朽化していき、改修のための費用がかさめば市民の利用料金に跳ね返ってしまう。そこで民間の自由度を生かし、創意工夫で事業コストを削減していくことがコンセッション導入の意義となります。

構造実験棟で研究テーマについて語る丸田教授

■地域とともに事業永続性を高める努力続ける

委員  上下水道部として、今後重視していくことは?

局長 特別目的会社の事業運営をしっかりと監視していくことですね。市の要求水準を設定し、三重構造でモニタリングを実施します。第一には特別目的会社自らがモニタリングしデータを含めて公表する。次に、浜松市が経営も含めて常時監視する。そして、専門機関による第三者モニタリングを行う。この三重構造によって、不自然な点があれば洗い出し、きっちりと是正措置をとっていくこととなります。
 一方で、市の関与をあまりに強めてしまいますと、かえって民間で運営することのメリットをそいでしまう可能性もある。民間の自由度は確保しつつ、要求水準を満たす努力を継続していただくことが肝要かと思います。  また、事業の持続的な運営のためのカギとなるのは、地域の事業者の存在であると私は考えています。地域企業とともに事業の永続性を実現する着実な運営体制を追求していきたいと思います。  

委員 理想的な浜松型のコンセッションを実現できますよう、今後も確実な運営をお願いいたします。

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