土地や建物に刻まれた人の営みの記憶に触れたとき、何とも言えず魅力的に感じ、心をとらえられることがあります。数十年、それ以上の時を経たある時を、この場所で生きていた人たちが確実にいたのだという感覚が、私たちを時間や空間を飛び越える旅へ、非日常の世界へと誘います。
 今回は浜松市天竜区阿多古地区にある、非日常の世界への「扉」となるような場所、簡易宿舎「阿多古屋」と「ヴィラ阿多古」のある風景をご紹介します。


阿多古屋外観

松尾神社
 幕末に建てられた街道の宿「阿多古屋」、築年数は160年以上。「魅力ある伝統的な建築をどうにか残したい」と一念発起した林道雄さんが、手つかずのまま朽ちていかんとする建物を買い取りました。現在、この建物を簡易宿舎とコミュニティースペースとして再生する「阿多古屋プロジェクト」が進行中です。基礎や内装、水回りなどの改修を進め、物件取得後約1年で簡易宿舎のプレオープンまでこぎ着けました。

阿多古屋小上がり

モール街
 往事、木材を下流に運ぶための船着き場として栄えた阿多古地区。最盛期には4〜5軒の宿が軒を連ねたそうです。再生した阿多古屋も、宿の間取りは当時のまま。柱や梁などの建材もできる限り残すことで、小上がりに腰掛けるだけでタイムトリップしてしまうような感覚を得られる、そんな空間を演出します。その一方で、居住空間としての快適性にもこだわり、そのバランスの良さが施設の魅力を高めていると言えます。

阿多古屋2階フリースペース

有楽街
 2階のフリースペース。かつては宴席の舞台として使用され、軒先にひょうたんが掲げられると「宴席開催中」の合図となっていたとか。いまも友との語らいに思わず時を忘れてしまいそうになる、ゆったりとした時間が流れる空間です。
 「夏場には清流の涼を求めて阿多古に多くの人が集まっている。さらに非日常感に富む豊かな時間を過ごすことができる拠点として、阿多古屋を利用してもらえれば」と林さんは話しています。

阿多古川の風景

柳通り
 環境省が選ぶ「平成の名水百選」に名を連ねる阿多古川。夏休みには川遊びに訪れる家族連れが多く見られます。水の美しさに加えて、浅瀬のため子どもたちが安心して遊びやすいことや、浜松市街地や新東名インターなどからのアクセスが容易なことなどが、人気の背景となっています。
 「地域の人たちをどんどん巻き込んで、一緒になって阿多古を盛り上げたい」と林さん。川遊びだけではない阿多古の魅力を発信していきたいそうです。

ヴィラ阿多古 内装

第一通り
 阿多古屋が簡易宿舎の形式をとるモデルケースとなったのが、近隣で2016年から運営を始めた簡易宿舎「ヴィラ阿多古」でした。オーナーの森さんが「生まれ育った阿多古の地での暮らしをもっと楽しめるように」と、旅行で訪れた宮古島のコンドミニアムを参考にリゾート型の簡易宿舎を企画しスタート。自身が趣味とするアウトドアの要素も取り入れたしゃれた空間づくりが人気を集め、順調に稼働率を伸ばしています。

ヴィラ阿多古 屋外

第一通り
 アウトドアライフを積極的に楽しみたい人や、空間の非日常性に身をゆだねて「何もしない」時間を過ごすために訪れる人。利用目的はさまざまだと言います。阿多古屋の林さんやヴィラ阿多古の森さんのような、若い世代の新たな取り組みが、阿多古地区に新鮮な魅力を加えてくれています。

【阿多古屋 FaceBook】
 https://www.facebook.com/pages/category/Hotel/阿多古屋-710853752443912/

【ヴィラ 阿多古 ホームページ】
 http://www.villa-atago.com/