2020年夏の稼働を目指し賀茂郡河津町梨本で小水力発電所の建設が進んでいます。そこは100年以上前の明治時代に発電を開始した梨本(水力)発電所の跡地で、同発電所は1972年(昭和47年)に操業を停止しましたが、伊豆で葬儀や介護、廃棄物処分などさまざまな事業を手掛ける「ひろせグループ(下田市)」の一般社団法人IZU・パワーが一部の既存施設を再利用して約50年ぶりに発電所を復活させます。異業種からの水力発電事業参入は全国的にもめずらしく注目を集めています。
今回は事業を計画したIZU・パワー代表理事の菱沼聖氏、土木施工管理技士の渡邉研一氏、電気主任技術者の鈴木さつき氏に、開発に至った経緯や今後進めていく工事の内容などについてお話しを伺いました。
(聞き手:静岡県建設業協会総務・広報委員会委員長 佐野茂樹氏、同副委員長 三尾祐一氏、下田建設業協会広報委員 田中章氏、同委員 杉井李利氏)
新聞で計画を知り大変驚きました。なぜ伊豆で小水力発電ができると思ったのでしょうか。
平成23年に東日本大震災が発生して再生可能エネルギーへ注目が集まりましたね。私もかねてから自然エネルギーに関心がありましたが、伊豆では太陽光や風力は森林伐採や土地造成を伴うため難しいと考えていました。そんな時に梨本発電所の存在を知り、「山が多く水が豊かなこの伊豆では水力発電が最適なのではないか」と思い計画を立てました。 翌平成24年には「一般社団法人IZU・パワー」を設立し、国や県・町への働きかけを進めてきました。
計画を実現する上で苦労したことはありますか。
水利権の取得や環境省の許可を取るのが大変で、平成24年の7月から働きかけ、平成30年10月に着工するまで6年もかかりました。新発電所は産業遺産である梨本発電所の構造を継承しつつ、発電事業に支障をきたす古い施設は新しくしていきます。そうすることで国立公園第2種特別地域である一帯の自然環境に大きな負担をかけないようにしています。また建設地には河津七滝の一つである大滝があります。発電用に川の水を大量に使えば、落水が細り、雄大な滝の景観を台無しにしてしまいます。河川法のガイドラインでは維持流量を毎秒0.08立方メートルとしていますが、私どもでは毎秒0.50立方メートルを景観保全のための最低維持流量としました。この流量については環境省と何どもすり合わせを行っており、この数値であれば観光業が主体の河津町の皆さんに迷惑をかけることはないと思います。
取材に対応してくださった菱沼氏(写真右)、渡邉氏(写真中央)、鈴木氏(写真左) |
観光にも配慮した発電所となっているのですね。あらためて施設計画と工事内容について教えてください。
発電方式は流れ込み方式の水路式となります。取水位の標高は171メートル、放水位の標高は90メートルで、総落差81メートル、有効落差は76メートルとなります。また、発電所(約140平方メートル)を新築し、水圧管(内径85センチメートル、延長170メートル)と余水管(内径40センチメートル、延長167メートル)を新しく敷設します。その他、水槽(長さ17メートル、幅6メートル)を新設しますが、沈砂池と放水路は一部補修して既存施設を活用していきます。取水堰は既存施設をそのまま活用し、取水地点からの導水路は既存のトンネル(延長1,250メートル)を一部補修して活用します。使用水量は最大0.88立方メートル/秒です。
水車は水量が減少しても発電可能なターゴインパルス方式を採用します。最大出力は499キロワット、年間では約3,000メガワットアワーの発電が可能です。
施設配置図 |
発電した電気はどのように活用されていくのでしょうか。
電力で地産地消を図り、地域を活性化させていきたいと思っています。さきほど説明にあったように年間の発電量は約3,000メガワットアワーで、これは約1,000世帯分の消費電力に相当します。化石燃料に頼らない再生可能エネルギーの地産地消を推進していきます。
また、発電した電力は東京電力に売電します。発電には河津川の水を利用させていただくことから、観光資源となっている渓流釣りの管理者である河津川非出資漁業協同組合の活動への助成と、取水施設は富士箱根伊豆国立公園に位置するため、国立公園の維持・管理・活用などに役立てていただきたいので、売電した収益の一部は河津町に寄付していきたいと考えております。
取材の様子 |
地域活性化への効果も期待できますね。最後に2020年の完成に向けて一人ずつ意気込みをお聞かせください。
南伊豆地域の新たな再生エネルギー源として発電所を建設し、地域のエネルギー供給化を図り、1世紀前に建設された施設を一部活かして保全・開発にも努めてまいります。施設は子どもたちへの自然環境や自然エネルギーの教育的施設としての活用も考えており、地方創生の一助に貢献していきたいと思います。
水の落差を利用する発電なので、当然急斜面での作業が多くなります。施工業者の力を借りながら、土木担当として事故がないように一つ一つ慎重に工事を進めていきます。
私は自然環境を活かす再生可能エネルギーに関心があって、3年前に小水力発電所の計画を知り弊社へ転職してまいりました。山の中での工事ということもあり苦労することも多いですが、女性ならではの気づきや女性だからこそできることもあると考えておりますので、発電所の完成に向けて頑張っていきます。
現場を視察する委員ら(取水地点) |