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 将来の担い手確保・育成が喫緊の課題となっている建設業界。県内の育成環境を見ると、土木工学を専門に学ぶことができる大学が無く、進学する場合に県外に出て行くことを余儀なくされているのが現状だ。このため、県内建設業では県内大学への設置を待望している状況が続いていた。このような状況の中、2022年4月の土木工学科設置を表明した静岡理工科大学の野口博学長に設置、人づくりなどについて聞いた。

◆略歴◆
静岡理工科大学 学長 野口 博
東京大学工学部建築学科卒業。同大学院工学系研究科建築学専攻博士課程修了(工学博士)。千葉大学名誉教授

◆聞き手◆
県建設業協会 総務・広報委員会
委員長 佐野 茂樹(青木建設社長、三島建設業協会)
副委員長 三尾 祐一(三与建設社長、富士建設業協会)
委員 松下 進一 (松下組社長、袋井建設業協会) 

◆学科メモ◆
学科名 理工学部 土木工学科
入学定員 50名
収容定員 200名(各学年50名×4学年)
専任教員 9名
設置時期 2022年4月
施設・設備 
 土木工学科棟(仮称) 普通教室、実習室、教員居室、研究室、実験室など
 実験棟

外岡達朗所長

土木学科棟(仮称)の建設予定地

委員 土木工学科設置の背景を教えてください。

野口学長 人口約365万人の静岡県に土木工学科が無いことを問題視した。加えて、人材と若い担い手不足が大きな課題となっている地元建設業界、行政からも設置のニーズが非常に高く、大学で土木の専門分野を基礎から学んだ人材が求められている状況があった。さらに、静岡県内は鉄道、港湾、空港も完備し、交通の要所であり、大規模な地震時には日本全体が機能不全に陥る。それを防ぐため、静岡県だからこそ土木と防災の技術者が必要だと考えた。若い人もインフラの老朽化と大規模災害の発生に対する保全の切迫性は認識している。
 防災・減災に加えてi-Constructionへの対応など、従来型にとらわれずに取り組むことができるのが〝土木〟であり、さらに魅力は増していると思う。

インタビュー風景
土木学科棟(仮称)の外観イメージパース

委員 教育内容はどういったものになりますか。

野口学長 土木工学分野を専門に学ぶことができる学科は、県内大学では今までに無く、静岡で育てる土木技術者は大学では初めてとなる。
 育成に当たっては、南海トラフ巨大地震、台風などによる河川の洪水、崖崩れなどに対して、災害に強いインフラ整備などの〝防災・減災〟、橋梁や道路などの〝社会基盤の維持管理〟、高齢者も便利に暮らせるような〝未来型のまちづくり〟などを視野に入れていく。さらに、急速に進む情報化技術の活用を含むi-Constructionの動きを捉え、AI、ICT建機、ドローンなどでいかに効率化できるか、データ分析技術などを取り入れていきたい。また、土木分野でもデザイン力、景観への配慮、地球環境保全が求められる。施設も土木工学科棟が建築学科棟と並んで建てることから、建築と連携してデザイン力の育成を図っていきたい。

委員 入学定員などの規模は。

野口学長 入学定員は50人で、4学年そろうと200人となる。専任教員は9人を予定している。現在、8人に内定を出している。そのうちの1人は建設マネジメントを専門にしている女性の教員を予定している。

インタビュー風景
建築学科と隣接する土木学科棟

委員 施設は。

野口学長 建築学科棟と同程度の規模で、4階建て延べ3400平方メートル程度。土木のプレゼンテーションができる場所や対話型の部屋、教室、会議室、ゼミ室の他、実験室も別棟で造る。実験棟には、水工学やコンクリート工学、構造や土壌について学べる設備を導入する計画だ。
 〝ものづくりの現場を視察・調査し、考え、議論・発表する。そして、また考える〟という土木工学特有の思考サイクルを最大限加速する建築空間とする。また、地震などの災害に強い施設を目指す。この他、今まで建築と土木は距離が感じられる存在だったが、新しい土木工学科を設置するに当たって、育つ時から隣同士で距離が近いものとして環境を整備していく。

インタビュー風景
講堂からの見返し

委員 新築する施設の特徴を教えてください。

野口学長 コンクリートの巨大な三つのコアと今まであまり使用されていないワッフルスラブを使用し、耐震性とオープンな空間を両立する構造体とすることが挙げられる。また、傾斜地に建設することから土地を削り、建築学科棟と軒の高さをそろえ、二つの校舎の大屋根を連続させることで、建築と土木の融合を示したものとする。

内観パース 内観パース
内観パース(4F)

委員 地元建設業界に一言お願いします。

野口学長 東西に長く、海岸線や河川、山間地が充実している静岡県。県内で学んだ学生が、地元に貢献できるかが重要となる。県内就職を希望する在学生が多い。彼ら・彼女らが同期として県内に残ってくれると心強い。建築学科は設立から4年が経過した。担当教員から就職活動は良好だと聞いている。また、企業との共同研究にも力を入れるとともに、インターンシップなどの活動を通して、できるだけ地元の企業、行政と連携して、人材を育てていきたい。

インタビュー風景
インタビュー後の記念撮影

静岡理工科大学ホームページ
https://www.sist.ac.jp/

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