株式会社小澤造園(静岡市清水区)
現場管理担当 山本麻未
日本で狩猟を行うためには、狩猟免許を取得し、狩猟を行う場所への登録をしなければなりません。免許には「銃猟」「罠猟」「網猟」の3種類があります。さらに銃猟に使用する銃は所持許可を得ることも必要です。
また、有害駆除という要望があった時に、狩猟免許を所持し、かつ従事資格を持った者が行う猟もあります。
アラスカ山中で休憩 | アラスカ射撃場にて |
射撃場にて練習 |
アラスカ 獣の足跡 |
十数年近く趣味で小さな畑を借りています。トウモロコシが収穫目前で食べつくされた年がありました。犯人は旬の作物を食べる、通称「美食家」と呼ばれるハクビシンでした。初めての被害でひどく悔しかったのですが、食べ頃を狙い綺麗に食べ去る獣には脱帽しました。名前は聞いたことがあるけれど、まさか自分の畑に来ると思ってもみませんでした。渋々収穫のない残念な畑を片付けていると、まだ他にも招かざる客の痕跡を見つけ、姿は見せないが近くにいる動物への好奇心と無念さの混じる複雑な気持ちになりました。
そんな時に狩猟を始めた知人から話を聞く機会があり、もう少し知りたい獣の世界のために、狩猟免許を取得しようと決心しました。
山の中での解体 | 猟場にて |
初めての解体 |
本格的に狩猟を始める前に、鹿の解体作業を手伝う機会がありました。その時は目前の鹿に対しどんな感情を持つのか不安でしたが、野生動物の持つ骨格の美しさと、見慣れたお肉の塊と感じたので、この先を進んでも大丈夫と確信しました。
私は現在「銃猟」「罠猟」の免許を所持しています。
猟期は主に、巻き狩という獣が出そうな場所に人員を配置し、犬に獣を追わせて配置場所で待ち伏せて撃つ猟に参加しています。
メンバーの最高年齢差は66歳と幅があり、狩猟に関する昔話や山中の歩き方、有用植物の同定、携行品、デジタル機器の使い方、様々な情報交換が行われます。
通常獲ったものはその場で解体し皆で分けます。皮や骨、内臓は埋設してきます。それらは山に住む小動物の餌になり、うっかりしているとこちらが気付かないうちに折角の成果を持っていかれてしまうこともありますが、そんなくやしい失敗も猟期の終わりの慰労会では笑い話となります。
猟場にて |
野生動物をどう扱うか、狩猟に関して人の捉え方は様々です。農業や林業等の事業者にとっては、鹿や猪などは害獣でしかなく、被害に頭を抱えているのは現実です。
命を止める狩猟風景を見て、ただただ「かわいそう」という方、銃を所持すること、一度に手にするであろうお肉に興味を示す人、様々です。
ただ闇雲に獲るのではなく、自然界とのバランスが取れる範囲で狩猟は行われ、その一部は食されています。わざわざ自ら大変な思いをしてやらなくても、と言われますが、それら取り巻く状況を色々な方向から知りたいのです。
ちょっとした好奇心で声をかけてくださる方に、だいぶ未熟者ですが、私の言葉でお話が出来ることは嬉しく思っています。
私もきっかけがなかったら、知る機会を逃していたでしょうし、先輩方には沢山教えていただきましたから。
現場燻製品エゾシカスープ | 天然えのきとエゾシカのしゃぶしゃぶ |
昔、鹿肉は美味しくないと評判はいま一つのようでした。原因の一つは、目的がハンティングトロフィー(壁掛けなど装飾用の剥製)だったためと言われています。立派な角や頭を持つ大きく逞しい個体は、当然お肉は固く調理に困ったのでしょう。
獣肉の味には個体差や旬があります。家畜肉は通年安定したクオリティのものを供給できるよう管理されていますが、野生動物は食べているもの、年齢や発情期等、さらに狩猟方法や獲った後の処理で差が出ます。
熊や猪は、木の実が豊作で冬支度した頃の個体は脂のうまみが多く、夏の雄鹿は青草の香り、雌鹿の1歳位のものは非常に柔らかく、他の狩猟鳥獣に関しても個性がありました。最近は獣肉料理(ジビエ)の、その独特の匂いや香りを好む人が増えているようです。
『食べたお肉が美味しかったので自分で獲ってみるところから始めたかった。』女性ハンターからそんな発言を聞くこともあります。実際に日常的に料理の機会が多く、食材を「美味しく食べたい」という欲求を形にするという好奇心が次の行動を起こさせるのでしょう。私とはスタートこそ違いましたが、確かに女性ばかりで集まればお肉の種類や部位と調理方法の情報交換、手前料理を持ち寄り食事会と、出猟とは違った楽しみを共有できる頼もしい仲間ができました。
熊・イノシシ・鹿の三種 |
女性ハンター仲間 | 女性ハンター仲間2 |
アラスカホームセンター | アラスカホームセンター |
解体を始めた頃、先輩にナイフを借りるか、アウトドアナイフで参加していました。通常は買うという選択しかないのですが、偶然にも鉄をたたいてナイフを作る講座を見つけ、参加してみました。『道具を作る事と作った道具を使う』の行き来では気づかされることは多く、‐なんでも自分でやってみたい‐と思うようになりました。 続く講座は自分で木を伐りだし、棍棒を作る。磨製石器を作る・弓矢を作るetc。少しずつ猟具・山道具の構造や歴史が理解できていく楽しみに加え、講義中の他県の猟師との交流は刺激的でした。
それらがきっかけで、岐阜や北海道に呼んでいただき、さらには、ハンティングスクールのスタッフとしてアラスカに同行しました。アラスカでは、通ってきた道以外人工物のない大自然にふれ、弓や投石などかつての狩猟道具で鴨や魚を獲ったり、現地在住のハンティングガイドによる銃の取り扱い講座を開催したりしました。国土の広さは当然、狩猟のルール、使用車両、猟場等スケールの違いに戸惑いましたが、以前目にした北海道北方民の猟具とアラスカの猟具・生活用具や様式に共通項を見つけ、温暖な気候の静岡との植生の違いを肌で感じることができ、良い意味で日本と比較できた経験は本当に素晴らしいものでした。
アラスカ湖畔にて | アラスカ湖畔にて夕方 |
鹿革靴 |
猟場にて 仲間 |
人間を含めた動物、植物、昆虫・・・他の生き物と共存できる距離感を保つためには知っておいたほうが良いことがたくさんあります。
多種多様な人が集まると化学変化を起こし、新たな何かが生まれます。
何かに気付き、誰かとつながり、用意されているかのように縁があり、気持ちが動き行動に移せるのであれば、やっておいたほうが人生はきっと面白い。
狩猟と関わったことで、強く思いました。