毎月第一日曜日、静岡空港の第5駐車場(西側)に早朝から旧車がどこからともなく集まって来る。
日本車は「日産スカイライン・通称箱スカ・ケンメリ」「フェアレディZ」「510ブルーバード」「トヨタ・TE27トレノ・レビン」「いすゞ117クーペ・ベレット」「マツダ・コスモスポーツ・キャロル」他多数。
外車は「ロータスヨーロッパ」「デトマソパンテーラ」「BMW2002」「ランボルギーニLP400」「ポルシェカレラ930」他多数。
この日は天候不順だったので50台弱だったが、多い時には100台くらい集まるらしい。
車の年式は1960年代から1980年代の絶版車が殆どで、古ければ古いほど人目を惹く。
ただし、外装はもちろんエンジンルームも整備されていないと相手にされない。
イベントと言っても主催者がいるわけでも無く、会員制や時間の規制も無く、「ただの品評会・車自慢の場」と見るのが正解かもしれない。
しかし、暗黙のルールがあるらしく「空吹かし」等の騒音を出さず、人に迷惑をかけないことだ。とにかく「暴走族」に間違われたくないらしい。(中には若い時に相当ならしたオーラを発してる人もいるが・・・) 単純に車の好きな人達であり、「サーキットの狼」を愛読していた人達だ。
なので、ロールスロイスやブガッティのような超高級車はまず来ない。
主役はやはり「団塊の世代」である。若い時の安月給では高嶺の花だったスポーツカーが、退職金によって夢が叶ったようだ。そして、そのジュニアの世代も威勢が良く、親の愛車を受け継いでいるらしい。
ところが、このところ異変がある。旧車が投資目当てになっているのだ。
7年前に500万円ほどで買えた「箱スカGT-R」が、ここ数年でウナギ上りに高騰し、現在では2000万円ほどになってきたらしい。
銀行貯金の金利を考えるとよっぽど得なのだ。
資産家でない本当の車好きにとっては今でも「高嶺の花」となってしまった。
県内の旧車が集まる場所は他に、同じ第一日曜日は「エコパ」、第三日曜日は「吉田公園」、2か月に一回程度で「御前崎マリンパーク」など多数あるらしい。
場所によっては集まる「人種」が違うようだが、お互い波長が合えばすぐに友達になる。ただし、投資目的なだけで車を愛していない人の居場所は無いだろう。
ここで、熱烈なメカニックの高木さんを紹介しよう。
御前崎市に在住で、現在57歳。元々は車部品を組み立てる機械などの検査機を設計・製作する仕事をしていて、牧之原市堀野新田(結構な田舎)に工場を構え、海外出張は年の半分以上だったらしい。
現在は設計のみ請負い、工場はロータスヨーロッパ専用のレストア・ベースとなっている。
高木さんのロータスヨーロッパとの出会いは、スーパーカーブームの小学校5年生の時だった。
やはり「サーキットの狼」に魅せられて、地方にもやってきたスーパーカーショーを一人で見に行った。
その頃は今と違って、小学生だけの単独行動は不良の始まりと見なされ、親からボロクソに怒られたとの事。
「大人になったら必ず自分のスーパーカーを持ってやる!」と心に誓い、スーパーカーショーへ行ったのはそれが最初で最後となる。
その後、大人になってすぐに夢が叶うはずもなく、やはりスーパーカーは高嶺の花であった。
時は1985年。最初に買った車はフォルクスワーゲンだったと言う。そして、欧州への出張が多かった為かアウディ、BMW、ベンツと乗り継ぎ、2008年になって念願のロータスヨーロッパと出会う。
この頃はすでに絶版車となっていたので自分が納得する車が見当たらず、やっと見つけたのが1973年型の白色車(サーキットの狼の主人公と同色)。そして、購入したショップにレストアしてもらったら2年半もかかり、費用も高級車が買える程になってしまったらしい。
高木さんが自分でレストアするようになったキッカケは、2009年、赤色のボロボロの事故車と出会ってからだ。
機械づくりの知識や技能はあったが、ロータスヨーロッパの知識はゼロ。エンジン内部からシャーシに至るまで全て解体しながらの独学だった。
それから7年間は自分の仕事が忙しく手をつける暇が無かったが、2016年からボチボチとフレーム修正する機械も自分で作り出し、ピストンから全て磨き直して現在に至る。予定では後2年はかかるようだ。そして、赤色車のレストアが完了したら、次に現在乗っている白色車を全てバラしてレストアする予定だと言う。
その腕前は知る人ぞ知るとなり、全国ロータスクラブ・オブ・ジャパンの細野会長がわざわざ千葉から会いに来るほどで、日本で一番のロータスショップ(東京・葛飾)から部品制作の相談も有ると言う。なので、自分の車のレストアが遅れてしまうらしい。
先に紹介した静岡空港に愛車を走らせたいが気が重いと言う。
県内に10台ほどあるロータスオーナーが次々と修理の相談を言ってくるので困ると言うが、それほど人が良く「いやだ」と言えない優しい人柄だからだろう。
しかし、「あくまで趣味であり、プロのメカニックでは無い。本当に車を愛している人の相談しか聞かない」と言う。私が「これから電気自動車の時代だから益々部品が無くなりメカニックもいなくなって、旧車は維持費がかかりますね」と言うと、「維持費よりも意地だね」と苦しそうな笑顔が返ってきた。