ドローンで撮影した河津川水力発電所 |
旧梨本発電所 |
伊豆半島で廃棄物処理や浄化槽の清掃保守点検、葬祭、旅客などさまざまな事業を手掛ける「ひろせグループ(下田市)」の一般社団法人IZU・パワーが河津町梨本で建設を進めてきた小水力発電所「河津川発電所」が完成し、令和2年11月稼働を開始した。1972年に操業を停止した発電所を約50年ぶりに復活させ、化石燃料に頼らない再生可能エネルギーの地産地消の推進を目指すIZU・パワー代表理事の菱沼聖氏、電気主任技術者の鈴木さつき氏、ダム水路主任技術者の渡邉研一氏、技術部土木施工管理技士の須藤敏幸氏、技術部土木重機オペレーター朝倉正広氏に施設の稼働状況や工事の苦労などについて話を伺った。
(聞き手:静岡県建設業協会総務・広報委員会委員長 佐野茂樹氏、同委員 三尾祐一氏、下田建設業協会広報委員長 竹内聖氏、同委員 田中章氏)
取材に対応していただいた菱沼氏 |
鈴木氏 |
施設の稼働状況はいかがでしょうか
令和2年11月16日に稼働を開始しました。ただ昨年の11月から2月までの4カ月間は降水量が少なかったことから渇水期が続いたため、河川に流れる水が少なく、想定値の35~55%の取水量で発電しています。現在(※3月23日取材)は、3月20日の大雨の影響もあり運転を開始して以来はじめて最大取水量を確保することができ、フルパワーで稼働しております。また新型のターゴインパルス水車を導入したことで、水位が下がっていても問題なく発電できています。
工事を進めていく上で大変だったことはありますか
建屋に向かう動線が非常に細く、曲がりくねっているため、搬入用の車両が入ることができず設備を運び入れる作業にとても苦労しました。特に発電の主となる発電機は、その重量も4.7tもあり、丸太を何本も用いて、少しずつ引きずったり滑らせたりしながら、約半日かけて搬入しました。建屋内の指定場所に発電機が設置された時には、大きな拍手が沸き上がりましたね。
工事期間が約2年と長かったため、無事に竣工を迎え、営業運転を開始した時は、ほっとしました。
導水路のトンネル部は明治時代につくられていたものと聞いています。
安山岩と玄武岩から成るほぼ素掘りのトンネルです。過去の地震にも耐えてきた頑丈なトンネルです。他にも放水路が伊豆石の施設をそのまま利用しているなど産業遺産としての価値が認められている施設です。
導水路内の素掘り区間(安山岩・玄武岩) |
発電所の内部を見学する委員ら |
取水位の標高は171mで、有効落差は76m |
施設はどのように維持・管理をされていますか
週に3回の点検を目視で行っています。建物はもちろん、地山などの周辺で倒木の有無や断線がないかをしっかり確認するなど、あらゆる面を気にしながら保守に努めています。
取水口施設についても、遠隔監視の拡充、水の濁度に関するノウハウを蓄積することで大雨時の対応を万全にしていくことが目下のテーマです。多少は遠回りに見えることでも、今後のためには足元から僅かずつでも確実に安全性を高めていきたいと考えております。
最後に今後の抱負をお聞かせください
当社が目標に掲げる「電力の地産地消」による地域の活性化を目指し、そのためには設備の維持管理を徹底して、安定した電力を供給できるよう努めていきます。
発電方式 | 水路式(流れ込み式) |
取水位 | EL171m |
放水位 | EL90m |
使用水量 | 0.88m³/s(最大) |
河川維持流量(景観保全) | 0.50m³/s |
年間可能発電量 | 約3,000MWh |
設備 | 取水堰(石積み重力式)、沈砂池、水槽、導水路(無圧トンネル式・延長1,250m)、水圧管路、余水路、放水路(無圧暗渠式)、発電所(地上式)、ターゴインパルス水車1台、横軸三相誘導発電機1台※取水堰、導水路、放水路は既存施設を活用 |
発電所の前で記念撮影 |