フェンシングを中心としたまちづくり

 沼津市は、「フェンシングのまち」としてブランド化を進めています。令和3年度に策定された第5次総合計画では、スポーツによるまちづくりが重要な柱として位置付けられています。その一環として、令和3年4月に市長部局に「ウィズスポーツ課」が新設されました。以前は主に教育分野が担っていたスポーツ施策ですが、現在は観光やまちづくりとも連携し、戦略的に取り組んでいます。新たに建設された総合体育館「香陵アリーナ」では、最新設備が導入され、道場・弓道場なども集約されるなど複数のスポーツ施設が一体化された複合型施設として利用されています。体育館利用者のみならず、サイクリストやランナー、香貫山や沼津アルプスを訪れるハイカーなども利用できる喫茶コーナーが設けられ、新たなにぎわいの場となっています。

なぜ沼津でフェンシングなのか?

 沼津市は、昭和32年の第12回国民体育大会で静岡県立沼津西高校がフェンシング会場となったことをきっかけに、国内でもフェンシングが盛んな地域となりました。その後、沼津市内の4つの高校にフェンシング部が設置され、これまで多くの優秀な選手を輩出してきました。協会と関係があるフェンシング出身者も多い中、平成31年2月には、日本フェンシング協会と包括連携協定を締結し、令和2年6月に「フェンシングのまち沼津推進協議会」が設立されました。令和3年6月にはフェンシングのアルミ製競技台6台を設置した拠点施設F3BASE(エフスリーベース)が完成。沼津市はサッカーや野球で日本一を目指すのは難しいと考慮し、マイナースポーツであるフェンシングに可能性を見出し、日本一のフェンシングのまちを目指して活動しています。

F3BASE_正面玄関F3Bオープニングセレモニーオリ

オリンピアン長良将司氏がもたらしたフェンシング発展

 その包括連携協定締結に基づき、沼津市は2019年4月からフェンシング事業のキーマンとなる長良将司氏を任期付正規職員として採用し、現在は正規職員として沼津市役所に勤務しています。シドニー・アテネの2大会オリンピックに出場した経歴を持ち、引退後も日本代表コーチやJOCエリートアカデミーコーチなどを歴任し、指導者としても優秀です。フェンシング関係者でなおかつオリンピアンである長良さんが沼津に来てくれたことが一つのターニングポイントになったのではないかと思います。

「フェンシングのまち沼津」の取り組みと成果

 協議会では、次の4つの柱を軸に事業を展開しています。裾野拡大事業、シンボルフェンサー育成事業、大会開催・合宿誘致事業、そしてフェンシング環境整備事業です。主な活動としては、誰でも楽しめる生涯スポーツとしてのスマートフェンシングの普及、沼津市近隣から優秀な学生を選抜・育成する取り組み、すべてのスポーツ団体を対象とした食育やメンタルトレーニングの実施、大会や合宿の誘致、拠点施設の運営などがあります。これらの取り組みによって、沼津市は「フェンシングのまち」として新たなブランドを確立し、フェンシングを通じたスポーツツーリズムによる産業振興や市のPRを目指しています。こうした活動の成果として、昨年と今年、全日本フェンシング選手権大会が沼津市総合体育館で開催され、さらに日本代表合宿や多くの学校・企業の合宿の受け入れを行いました。中学生チャンピオンの輩出や、年代別の日本代表の誕生、そして多くのスマートフェンシング指導者の育成など、様々な成果を上げています。また、スポーツツーリズムによる経済効果も期待されており、フェンシングだけでなくすべてのスポーツの発展、市民の健康寿命の延伸も目的としています。設立から4年が経過した現在、多くの企業や個人からの賛同を受けて会員が増加しており、運営は会員からの会費と沼津市からの負担金で賄われています。

スマートフェンシング
スマートフェンシング講習会最新スマートフェンシング機材

パリ2024オリンピックと沼津市のフェンシングへの貢献

パリオリンピック

 今年、パリ2024オリンピックが開催されました。フェンシング男女フルーレ日本代表は、4月に国内最終合宿地として沼津市を選びました。選手たちは「いつも沼津市の応援が心強い」と話し、オリンピックに向けて士気を高めながらフランスへ出発しました。今回のオリンピックでは、日本のフェンシング界が目覚ましい活躍を見せました。フェンシングの母国であるフランスをいくつかの競技で打ち破り、男子エペでは加納虹輝選手が個人で金メダルを獲得しました。また、男子フルーレ団体が金メダル、男子エペ団体が銀メダル、女子フルーレ団体と女子サーブル団体が銅メダルを獲得し、合計で5つのメダルを手にしました。私も団体戦をすべて現地で観戦し、興奮と感動を味わいました。会場は1900年のパリ万国博覧会で建設された「グラン・パレ」で、観客席は仮設で設置されていました。また、天幕は東京ドームの屋根も手掛けた太陽工業株式会社製であり、建設業界や日本の技術力について多くの学びを得ることができました。

男子フルーレ日本代表女子フルーレ日本代表

「フェンシングのまち沼津」今後の展望と目標

頼重市長と

 最後に、今後の展望についてお話しします。まず、このフェンシングの取り組みを「スポーツを活用したまちづくり」の全国的なロールモデルにしたいと考えています。行政が主体となる必要はなく、自分たちで協力者を集めながら、さまざまな地域でそれぞれの特色を持つ「○○のまち」が生まれることを期待しています。そのために、これまで蓄積してきたノウハウを積極的に共有していきたいと考えています。もう一つの目標として、アスリート、特にマイナー競技のアスリートのセカンドキャリアを確立できるよう提案していきたいです。フェンシングにおいては、代表選手として活動していても、引退後にフェンシングとは全く関係のない職業に就くケースが多く見られます。選手が競技生活で得た経験や知識・技能は、選手本人だけでなく、次世代を担う子どもたちにとっても貴重な財産です。アスリート雇用に限定せず、市の職員などまちづくりに関わるプレイヤーとして、積極的にアスリートを採用していくことを提案したいと考えています。オリンピックでのフェンシング界の活躍を沼津市のまちづくりの原動力とし、今後も協議会の運営に取り組んでいきたいと思います。将来の目標は、地元からオリンピック選手を輩出し、金メダルを獲得すること、そして世界規模の大会を誘致することです。地域の皆さんにとってフェンシングが誇りとなるよう、これからも活動を続けていきます。今後も「フェンシングのまち沼津」への応援をよろしくお願い申し上げます。

フェンシングのまち沼津