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自慢のウイスキーを手に笑顔の中村社長 |
2014年にガイアフローディスティリング株式会社を創業。2016年に『ガイアフロー静岡蒸溜所』を竣工し、2020年12月に初めてのシングルモルトウイスキー『シングルモルト日本ウイスキー静岡 プロローグK』をリリース。2024年のWorld Whisky Awardsでは100%日本産大麦のウイスキーでカテゴリーウイナー(最優秀賞)を獲得するなど、日本産の材料にこだわったウイスキー造りに情熱を傾ける同社の中村大航社長に、ウイスキー製造に携わるきっかけや製造工程などを聞きました。
【聞き手】
三尾祐一委員長
市川聡康委員
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中村社長にウイスキー造りに携わる経緯を聞く市川委員 |
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蒸留所の適地について語る中村社長と三尾委員長 |
ウイスキー造りに携わるようになった経緯をお聞かせください。
父がウイスキー好きで小さい頃からそのコレクションを見て育ったこともあり、私自身も20代になる頃にはすっかりウイスキーマニアになっていました。大学を卒業して祖父の創業した精密部品の製造会社を3代目社長として経営していたのですが、大手からの下請け仕事が中心なため「自らの手で企画・販売したものをお客さんに直接提供したい」という気持ちが強くなっていきました。事業を模索する中、2012年にスコットランドのベンチャー蒸留所を見学したことで「自分のやることはウイスキー造りだ」と確信し、帰国後にガイアフロー株式会社を立ち上げました。
静岡市内に蒸留所を開設した理由は。
全国の蒸留所建設に適した土地を探していたのですが、たまたま知り合った株式会社CSA不動産(静岡市葵区)の小島孝仁社長が「私も探してみますよ!」と快く協力してくださり、いくつか紹介していただいた候補地の中からウイスキー造りにピッタリの条件を満たした現在の場所を見つけました。元々静岡市が保有する遊休地だったのですが、偶然にも市の担当者の方が大のウイスキー好きということもあり、スムーズに話を進めることができました。その後1年をかけて各種の準備を行い、2016年に『ガイアフロー静岡蒸溜所』を開設しました。
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2020年に初リリースした『シングルモルト |
静岡市の中でも、落合の地を選んだ決め手は何でしょうか。
地元である静岡の標高200メートルの山あいに立地し、きれいな川が付近を流れていて土地が広いこと。気温も安定して空気が良く、アクセスも整っていることなど、諸々の条件がウイスキー造りに適しています。正直な話、静岡市内でこんなにピッタリな場所が有るとは思っていなかったので私自身も「静岡にこんな良いところがあるのか」と感激しました。
自社商品の製造・販売の他にもウイスキー普及のための活動を行っておられるとか。
一般のお客さんに向けて『蒸留所見学ツアー』を平日・休日ともに開催し、ウイスキーの製造工程をスタッフが一から分かりやすく説明しています。見学後にはテイスティングルームで当社のウイスキーや輸入している海外のウイスキーの試飲ができます。インドのシングルモルトなど、普通の酒屋さんでは中々見ることの出来ないウイスキーを揃えていますよ。また、2日間に渡ってウイスキー造りを一から学べる『静岡ウイスキースクール』や、『プライベートカスク』(ウイスキーを樽単位で予約購入できるサービス)の受付もしております。
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World Whisky Awardsで受賞したポットスティルWを試飲 |
貴蒸溜所の象徴ともいえる日本産大麦のウイスキーについて教えてください。
地元農家さんから仕入れた静岡産の大麦を100%使用したウイスキーと、県外産大麦を使用したウイスキーを製造していますが、前者は静岡産大麦の生産量に限りがあるため製造も限定的となっています。現行商品としては、100%日本産大麦(県外産)を地元の間伐材を薪にした直火加熱のポットスティル(蒸留器)Wで蒸留した『シングルモルト日本ウイスキー静岡 ポットスティルW 純日本大麦2024年版』を24年9月下旬にリリースしました。この他、同大麦を日本製の歴史あるポットスティルKで蒸気加熱によって蒸留した『シングルモルト日本ウイスキー静岡 ポットスティルK 純日本大麦2024年版』を同年12月にリリースし、いずれも好評を頂いております。ポットスティルWの初版(23年5月発売)はWorld Whisky Awards2024の日本地域シングルモルト/スモールバッチ部門ノンエイジステートメントカテゴリーにおいて、金賞とカテゴリーウイナー(カテゴリー内最優秀賞)を受賞しました。この他にも日本産大麦+外国産大麦のウイスキー、100%外国産大麦を使用したウイスキーなど個性豊かな商品をリリースしています。
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静岡県産のミズナラで作られた酒樽 | 原酒を樽詰めする工程 |
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原酒を詰めた酒樽を前に1枚 |
インタビューの前には、静岡県産のミズナラ材でできた樽へ100%静岡県産大麦を使用した原酒を樽詰めする工程を一般のお客さんと一緒に見学しました。ミズナラ樽で熟成したウイスキーはその独特の芳香と味わいで世界的に高い評価を得ていますが、水漏れしやすい特徴を持つために加工が難しく、今回も入手した10本の原木から3樽を作るのに大変な苦労があったと中村社長が語られました。熟成期間は約30年前後を要するといい、委員一同、未来のウイスキーへ思いを馳せました。
樽詰めの見学後には中村社長に蒸留所内を案内していただき、ウイスキーの製造工程を一から教えて頂きました。室内に入った途端にただようウイスキーの良い香りに、お酒好きの委員も思わず顔をほころばせていました。
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中村社長の案内で蒸留所内を見学する委員たち | 原料の大麦も静岡県産・英国産など多種多様 |
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発酵に使う木桶も静岡産杉で焼津の職人が製造したものを活用 | 麦汁が糖化・発酵を経てウォッシュ(もろみ)となる |
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ウォッシュを蒸留するポットスティルは、世界でも類を見ない薪による直火蒸留の『W』、軽井沢蒸留所で使われていた歴史ある『K』、再留釜『S』の3機が稼働している | ステンレスも溶ける高温にも耐える特注のかまど |
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蒸留の回数や時間経過で原酒の香りと味わいも大きく変わってくる |
原材料から設備の素材、蒸留方法まで「静岡らしさ」を追求し、他の蒸溜所とは違う唯一無二のウイスキー造りを目指す中村社長と『ガイアフロー静岡蒸溜所』の情熱と挑戦に委員一同が大きな感動と感銘を受けました。
このページをご覧くださった皆さまにもぜひ一度同蒸溜所を訪れていただき、ウイスキーの奥深さを楽しんでもらえれば幸いです。
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自然豊かな落合の地に建つ『ガイアフロー静岡蒸溜所』の外観 |
【ガイアフロー静岡蒸溜所 データ】
■住所:〒421-2223 静岡県静岡市葵区落合555番地
■電話:054-292-2555
■FAX:054-292-2500
■ホームページ https://shizuoka-distillery.jp