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特別企画
ダンピング問題を考える
米国ボンド制度 - ダンピング抑制に効果
 工事の激減が要因の一つになって、いわゆるダンピングが全国的に蔓延しています。わが県もご多分に漏れず、ダンピング受注が横行しており、品質の確保の観点から行政も対策を講じてはいますが、まだ、その効果は現れておりません。このダンピングはわが国だけの“現象”なのか、諸外国を見ると、「米国においては、ダンピングの問題が顕在化している事実はない」といいます。「米国のボンド制度は、本来、ダンピング受注の排除を目的としたものではないが、ボンド制度が相当程度の抑制効果を発揮している」と見られています。このような考察が、建設経済研究所の建設経済レポート「日本経済と公共投資」で報告されていましたので、抜粋して紹介します。
政・官・民が対策に乗り出す
 近年、公共工事におけるダンピング問題が大きな注目を浴びている。建設業界では、02年2月に(社)全国建設業協会から国土交通大臣・総務大臣に対し「ダンピングの防止に対しての要望書」が提出され、また8月以降には複数の業界団体でダンピング防止に関する委員会・検討会が設置される等の動きが見られる。
 また、発注者においても、国土交通省はじめ地方公共団体において、その対応策の検討や実施が行われている。国土交通省では、02年3月に「公共工事入札契約のよりいっそうの適正化に向けて」が発表され、早急に実施される方策のひとつとして不良・不適格業者によるダンピング受注等の排除があげられている。また、11月には各都道府県に対し「地方公共団体発注工事における不良・不適格業者の排除の徹底について」を通知し、その対応策の徹底を地方公共団体に求めている。この他、各地方公共団体独自の動向としては、低入札価格調査対象契約工事での監理技術者配置の増員(1人から2人に)義務付け等の対応も見られる。
 さらに02年12月10日には自民党「公共工事の品質確保と向上に関する研究会」より「公共工事にかかわるダンピング受注排除緊急対策」が発表され、7項目の対策が提示された。
 低価格受注による弊害を公共発注者の立場から見ると、第一に「適正な履行がされないこと(手抜き工事)」があげられる。次に、「施工途中での請負企業の破碇リスクが高いこと」があり、この影響は結果的に工事完成の遅延につながることとなる。
 さらに、建設行政の立場からは、「過当競争による優良建設企業の弱体化(地元建設業界の低迷)」、「下請企業や労働者へのしわ寄せ、労働条件の悪化、安全対策の不徹底等」が挙げられる。これらの弊害が指摘される以上、公共工事発注を行う機関においては、その対策を講じる必要がある。
海外の状況 - 米国ボンド制度に注目
 公共工事におけるきわめて低い価格による受注に伴う問題は、必ずしもわが国のみの問題ではなく、欧州や韓国等諸外国においても見られ、同様にその対策が検討されている。ただし、諸外国の中にあって、米国の状況は他と異なる。米国においてダンピングの問題が顕著化している事実はないという。これを類推すると、米国においてはボンド制度が普及していることがまず挙げられる。米国のボンド制度は、本来、ダンピング受注の排除を目的としたものではないが、入札ボンド等発行に伴う審査を通じて財務力の弱い建設業者の入札への参加を抑制するとともに、個別の入札において他業者より相対的に安い札について履行ボンドの引き受けを拒否する(低価格提示者と2番札との乖離率<bid spread>が10パーセント以上の場合、ボンド会社は履行ボンド等の発行を拒否する)場合もある。このため、ボンド制度は、ダンピング受注にも相当程度の抑制効果を発揮しているものと推察される。また、元・下関係の生産システムにおいて、米国では入札参加者が入札直前まで下請企業から見積もりを取り、それを踏まえて設定した価格で応札を行う場合が多いが、これは、わが国で指摘されるような元請企業の落札価格の決定後、下請け価格を決め、下請企業への価格引下げ圧力となるような構造と異なること等、全般的な制度・構造の違いから、必ずしも低価格受注が生じていないと考えられる。
低入札価格調査制度等の適正な運用を
 公共工事における「いわゆるダンピング」による弊害の対応策として諸所で協議されているが、現時点で「ダンピング」そのものを定義する基準が明確でなく、ダンピングを一律に排除することは困難である。やはり統一的な低価格受注による弊害への対応策としては、低入札価格調査制度、最低制限価格制度のより適正な運用がなされることが一義であり、特に低入札価格調査においては各発注機関における明確な排除基準の作成や同調査対象者への工事費内訳書・下請け見積書等の提出の義務化、現場の監督体制の強化等の対策を採られることが必要である。また、これらと並行して、不良・不適格業者の排除方策が進められることも肝要となる。さらに、個別の発注機関での対応が困難なものとして、ボンド制度の導入や施工能力を評価する独立の第三者的評価機関の設立も中長期的な対策として、その検討が望まれる。
 最後に、現在の公共工事におけるダンピング問題の根幹は、公共投資・建設投資の減少基調にあって、建設企業数とのアンバランス状態による需給ギャップに起因するものである。このことを考えれば、最終的には建設マーケットの縮小に見合った建設業者数、建設就業者数の調整なくして、この問題の抜本的解決には至らないだろう。
都道府県・政令指定都市別/低入札価格調査対象件数(01年度)
地方公共団体名 低入札価格調査結果 地方公共団体名 低入札価格調査結果
調査件数
(A)
排除件数
(B)
B/A
(%)
調査件数
(A)
排除件数
(B)
B/A
(%)



1 北海道 11 0 0.0%


30 鳥取県 6 0 0.0%
2 青森県 59 0 0.0% 31 島根県 0 0 -
3 岩手県 14 3 21.4% 32 岡山県 48 - -
4 宮城県 162 10 6.2% 33 広島県 1 0 0.0%
5 秋田県 20 0 0.0% 34 山口県 58 17 29.3%
6 山形県 408 24 5.9% 35 徳島県 4 2 50.0%
7 福島県 0 0 - 36 香川県 43 1 2.3%
8 茨城県 7 0 0.0% 37 愛媛県 150 0 0.0%
9 栃木県 0 0 - 38 高知県 19 3 15.8%
10 群馬県 0 0 - 39 福岡県 0 0 -
11 埼玉県 39 0 0.0% 40 佐賀県 0 0 -
12 千葉県 1 0 0.0% 41 長崎県 17 0 0.0%
13 東京都 3 0 0.0% 42 熊本県 0 0 -
14 神奈川県 2 0 0.0% 43 大分県 13 1 7.7%
15 新潟県 0 0 - 44 宮崎県 0 0 -
16 富山県 25 3 12.0% 45 鹿児島県 0 0 -
17 石川県 0 0 - 46 沖縄県 0 0 -
18 福井県 1 0 0.0%




47 札幌市 12 0 0.0%
19 山梨県 1 0 0.0% 48 仙台市 29 0 0.0%
20 長野県 70 1 1.4% 49 千葉市 4 0 0.0%
21 岐阜県 4 0 0.0% 50 横浜市 1 0 0.0%
22 静岡県 31 1 3.2% 51 川崎市 2 0 0.0%
23 愛知県 43 1 2.3% 52 名古屋市 1 0 0.0%
24 滋賀県 29 3 10.3% 53 大阪市 1 0 0.0%
25 京都府 0 0 - 54 神戸市 15 0 0.0%
26 大阪府 27 4 14.8% 55 広島市 150 2 1.3%
27 兵庫県 31 1 3.2% 56 北九州市 6 1 16.7%
28 奈良県 0 0 - 57 福岡市 48 0 0.0%
29 和歌山県 12 0 0.0% 合計 1,628 78 4.8%
建設投資額(名目)と建設業許可業者数の推移
建設投資額(名目)と建設業許可業者数の推移グラフ
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