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時評  
富士山を世界遺産に
 今年の日本アカデミー賞は「ALWAYS三丁目の夕日」が14部門で最優秀賞を受
賞する圧倒的な強さを見せた。人気コミックが映画化されたこの作品は、東京
タワーが建設中の昭和33年の東京下町が舞台。昭和28年生まれ、多感な少年時
代がちょうどこの時期に重なる小生は、公開と同時に地元のシネコン(今は映
画館とは言わないらしい)へ。
 主人公の家に冷蔵庫、そして待ちに待ったテレビが届けられる。近所の人た
ちが押し寄せて見るテレビ画面に映るのは力道山のプロレス中継……。次々に
繰り広げられる懐かしいモノや場面にひたり、人情味あふれるストーリーに胸
を熱くした。ラストには涙があふれてとまらず、その一週間後には再び映画館
に足を運んでいた。
女性の五輪
 映画だけでなく、いま昭和30年代のリバイバルがあちこちでみられる。「復
刻堂」のレトロなパッケージデザインのコーヒーやジュースといった商品類は
もとより、アミューズメントの分野でも「台場一丁目商店街」などの昔の町並
みを再現した施設が各地にできている。今年3月に浜松市にオープンした食の
テーマパーク「浜松べんがら横丁」は祇園のお茶屋街を意識したつくりで、時
代は昭和30年代ではないがものの古き良き日本情緒が感じられる。
 我々の建築業界をみても和風デザインの人気が再浮上し、塗り壁や無垢板な
ど天然素材の良さも見直されており、元帰りの傾向が見られている。
 時代を超えてもいいデザインや本物は残っていくものだが、このレトロブー
ムや元帰り傾向は今の日本人心境を反映しているように思う。映画の中の夢や
希望が満ち溢れていた時代の躍動感に心躍らせ、人と人のつながりに心を熱く
したからこそ、ここまでの大ヒットにいたったのではないだろうか。
 映画のラストシーン、夕焼けに染まる東京タワーを見て少年が「明日も50年
後も夕日の美しさは変わらない」と叫ぶ。しかし、50年もしないうちに高度経
済成長は成し遂げたが、その引き換えに大切なものを失ってきた。
 このブームを表面的なものに終わらせないで、先行きの見えない不透明な時
代の今こそ、温故知新の精神で原点に立ち返り失いかけたかけた大事なものを
取り戻したい。
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