大川(おおかわ)、北川(ほっかわ)、熱川(あたがわ)、片瀬(かたせ)、白田(しらた)、稲取(いなとり)―、伊豆半島東岸は東伊豆町の温泉郷。ことし4月、北川から望む相模湾で、満月が海に映って光の道ができる景色「ムーンロード」が、静岡県の「ふじのくにエンゼルパワースポット総選挙」の「行ってみたい」部門で1位に輝いたばかり。月といえば「すすき」。町の一番南の稲取で自慢の金目鯛の金ならぬ、陸の黄金色「すすき」が売り出し中です。秋には一面のすすきが黄金色に耀き、春には山菜が萌える稲取細野高原を紹介します。

三筋山山頂付近から相模湾を望む(写真提供:東伊豆町)
▲三筋山山頂付近から相模湾を望む(写真提供:東伊豆町)
満点の空・海は東伊豆(写真提供:東伊豆町) 太平洋に浮かぶ利島と新島(写真提供:東伊豆町)
▲満点の空・海は東伊豆(写真提供:東伊豆町)
▲太平洋に浮かぶ利島と新島(写真提供:東伊豆町)

「すすき原」は仙石原の7倍の面積

高原は125ヘクタール、東京ドームの26個分の広さ(写真提供:東伊豆町)
▲高原は125ヘクタール、東京ドームの26個分の広さ(写真提供:東伊豆町)

 満点の海・山・空は東伊豆―。東伊豆町の六つの温泉郷の一つである稲取は、「金目鯛の品質日本一を誇る漁港の町」(東伊豆町観光協会パンフレット)で、温泉と海の幸が満喫できるところです。

 ただ、伊豆全体にいえることですが、この町も観光振興が大きな課題になっています。

 そうした中で、今、町を挙げて売り出そうとしているのが、稲取細野高原。

 すすき原といえば、誰もが思い浮かべるのが箱根の仙石原ですが、細野高原のすすき原は面積125ヘクタールあります。仙石原の7倍、東京ドームの26個分です。

一昨年から始まった「すすき原」のイベント

高原はテレビCMや映画にも登場するそうです(写真提供:東伊豆町)
▲高原はテレビCMや映画にも登場するそうです(写真提供:東伊豆町)

 伊豆急・伊豆稲取駅から車で十数分で行ける、これほどすごいすすき原が、なぜ知られていなかったのでしょうか。

 東伊豆町観光商工課主査の岩崎名臣さんにお話を伺いました。

 「細野高原では、20年以上前から春に山菜狩り園を開園して、多くの観光客や地元の方が訪れ、草原の素晴らしさを満喫していました。秋のすすきの素晴らしさについても一部の方々の間では話題になっていました。けれども、高原への道路が狭いことや、多くの人々が訪れることで草原が荒らされないかというような心配から、情報発信などは控えていました」

 なるほど。

 「けれども、あれだけの観光資源を眠らせておくのはもったいないと、一昨年、初めてすすきのイベントを実施したのです。仙石原に少しでも近づいて、名前が知られていけばなあと思っています。海も見えるすすき原は全国的にも珍しいようです」

昨年は予想を超える1万人

 町の各観光協会はじめ、地元の人々の協力で、一昨年に初めて開催したすすき原のイベントには、5000人近い人たちが集まりました。

 昨年はPRも広げたこともあって、「そこまでは予想していなかった」約1万人が訪れたそうです。昨年のイベントは、「知られざる絶景・散策会」と銘打って10月1カ月間行われました。期間中には「すすきの中の月見会」「すすきフォトコンテスト」「すすきアートコンテスト」という企画もありました。

 さて、ことしの予定は?

 「昨年と同じような形でやりたいと考えています。ただし、期間は、昨年より半月延ばし、10月から11月中旬くらいまではどうかなと考えています」

昨年はシャトルバスで観光客の交通を確保しました(写真提供:東伊豆町) 昨年行われたすすきアートコンテストでの制作風景(写真提供:東伊豆町)
▲昨年はシャトルバスで観光客の交通を確保しました(写真提供:東伊豆町) ▲昨年行われたすすきアートコンテストでの制作風景(写真提供:東伊豆町)

駐車場などさらに整備へ

 一昨年の課題を踏まえて、高原の入口には駐車場とトイレが整備されました。ことしも事業費約1億円で、100台分の駐車場、トイレ1カ所、物販スペースの整備を進めるそうです。平成25年度予算のキャッチフレーズには「新たな観光資源開発の整備に投資」とあります。これは、すなわち細野高原のことです。

 さらに、来年度には、園内道路待避所の他、東屋や子ども用のアスレチック場も整備しようと検討しているそうです。

 しかし、何といっても大きな課題は、高原へのアクセス道路ですが、「簡単には進みませんが、ところどころ退避場を緊急的に整備していく考えです」と岩崎さん。

 具体的には、本年度に静岡県の補助を受けて、町道入谷天城1号線(国道135号からのアクセス道路)の狭あい部分の付け替えと退避場を整備します。また、町単独工事として、町道セイリ中ノ平線(アニマルキングダム、ゴルフ場方面からのアクセス道路)の一部拡幅改良を行う予定です。

 平成26年度末を目標に、みかんワイン工場から町道入谷天城1号線に抜ける農道を県営事業として新設・改良していることから、これが開通すると入谷地区の住宅街を通らずに細野高原にアクセスすることができるようになります。

東伊豆町観光商工課主査の岩崎名臣さん(右)にお話を伺いました(左は竹内委員と原委員長)
▲東伊豆町観光商工課主査の岩崎名臣さん(右)にお話を伺いました(左は竹内委員と原委員長)

春は山菜狩り園に

 この季節、すすきはありませんが、せっかくですから、細野高原に行ってみましょう。

 朝市会場となる町役場の駐車場を出発。伊豆稲取駅右に見て坂を上り、ミカン畑(ニューサマーオレンジ?)や石垣のある民家の間を通り抜けます。途中から道は、コンクリート舗装の農道となります。「アクセスが課題」の言葉どおり、対向車があればすれ違いは無理なため、譲り合わなければなりません。

石垣とニューサマーオレンジの道
▲石垣とニューサマーオレンジの道

 そうしてしばらく行くと、森の中の一本道の向こうに「歓迎 山菜狩り園入口」の横断幕が見えてきました。道の右側にはツリーハウス、正面にはこげ茶色の小屋。小屋には「三筋山細野高原山菜狩り管理事務所」という看板が掲げてあります。

 高原は、4月14日の日曜日から5月6日まで「山菜狩り園」となります。この期間だけは入園料(町外者は大人500円、同小学生200円)が必要になりますが、きょうはまだお金は要りません。

春は山菜狩り園になります 高原入口にはツリーハウスが建っています
▲春は山菜狩り園になります ▲高原入口にはツリーハウスが建っています

パッと開ける景色に驚き

 小屋を右折すれば、高原の入口(イベント広場)です。小暗い森からパッと景色が明るく開けます。細野高原です。初めて訪れる人はきっと驚くことでしょう。こじんまりした町並、人家、狭い道から突如広々とした高原、空に出会うのですから。

 昨年整備したという駐車場、トイレが見るからに新しい。これを通り過ぎて、どんどん奥に進みます。湿原、水源地を越えて、三筋山(標高821メートル)下に到着しました。ここは既に標高は400~500メートルあるそうです。

昨年整備した駐車場とトイレ 菜の花?の向こうに遊歩道が見えます
▲昨年整備した駐車場とトイレ ▲菜の花?の向こうに遊歩道が見えます

相模湾は青いのに…

 なだらかな起伏の山肌には、黒々と野焼き跡のあるすすきの根元が残っています。冬の装いの中に、春草の緑色が勢いを増そうとしているところでしょうか。よく見れば、すすきの根元には、既に開ききったワラビが風に吹かれていました。起伏を二つばかり越えた先に人がいます。有料になる前に山菜狩りをしている地元の方でしょうか。

 東をはるかに見ると、靄がかかっていますが、相模湾です。残念ながら海の青ではありません。

山菜がこんなに大きくなっています 野焼き跡が黒く残るすすき
▲山菜がこんなに大きくなっています ▲野焼き跡が黒く残るすすき

「この場所が好きだから」

町は吊るし雛発祥の地でもあります(町役場ロビーに飾られています)
▲高原の自然を守る鈴木信幸さん

 高原入口に戻ってくると、地元の大工さんで、高原でパラグライダースクールを経営している鈴木信幸さんに会いました。鈴木さんは、高原の管理人といえる方で、きょうは入口に立つ小屋「細野高原 大草原の小さな家」に看板(「東伊豆プチ観光案内所」)を取り付けているところでした。

 鈴木さんは「この場所が好きだから、(維持管理の仕事を)やらなきゃならない」と話した上で、細野高原の自然の大切さと、その保護に対する理解を求めていました。

 観光振興も町にとって必要です。細野高原に多くの人を呼び込みたいけれど、自然を損なってはなりません。岩崎さんによると、かえって高原を訪れたお客さんからも、自然保護を心配してもらえるということです。

♪♪
 ならいの風が 呼びかう町で
 未来にはばたく 私たち
 海幸 山幸 里の幸
 どこの祭りか 笛太鼓
 みんなの心を まとめます
 そんな町です 東伊豆
 (東伊豆町の歌「そんな町です東伊豆 3番)
                          ♪♪

船揚場が白く輝く美しい稲取漁港 町役場の前には江戸城大修築のため切り出された築城石があります
▲船揚場が白く輝く美しい稲取漁港 ▲町役場の前には江戸城大修築のため切り出された築城石があります
町は吊るし雛発祥の地でもあります(町役場ロビーに飾られています)
▲町は吊るし雛発祥の地でもあります(町役場ロビーに飾られています)

 東伊豆町の新たな観光スポット、細野高原の健やかな成長を静岡県建設業協会としても応援します。

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