ちょっと紹介特別編

駿河の海のバレリーナ 清水区由比の桜えび漁
~富士山と駿河湾に育まれる海の幸 その歴史と今~

一般社団法人清水建設業協会


(由比で水揚げされた桜えびの天日干し)
(由比で水揚げされた桜えびの天日干し)

特産・桜えび"基地"由比漁港

2015年6月中旬、由比港漁業協同組合の敷地では、桜えび春漁を終えた72隻が10月中旬の秋漁を静かに待っています。  駿河湾でしか獲れない桜えび。由比漁港は、年間40億円の水揚げを誇り、県内有数の桜えび沿岸漁業で活気づいています。

漁港整備は、1941年(昭和16年)に船溜まり施設を建設したことから始まりました。1952(昭和27年)から1962年(昭和37年)までは、数次の整備計画に基づき工事を進捗。1963年(昭和38年)、東名高速道路が港口部を通過することとなり、その補償工事としての整備が行われ、現在の漁港のかたちとなりました。

桜えびって、どんなエビ

学名Lucensosergia lucens。「甲殻類中・十脚類・遊泳類・車えび属・桜えび科・桜えび属(セルゲステス属)」の体長4~5センチ、寿命15カ月の動物プランクトン。体の表面に160個余りの発光器があり、甲殻が透明な桜色をしています。

深海性の生物。昼間や月夜は、深さ200~300メートルの海中で生息しています。闇夜には、深さ20~30メートルまで浮遊して群れをなしますが、明け方には群れは散り、下降してしまいます。
 この習性を利用して、桜えび漁は夜間に行っています。

桜えび漁 春と秋の理由

(現在の漁の様子)
(現在の漁の様子)

桜えびの習性を利用した「夜引き」。
 始まりは、偶然でした。
 1894年(明治27年)11月、2人の漁師が乗る鯵(あじ)夜曳船の浮き樽(カンタと呼ばれている)が外れ、網が海中深く沈み、桜えびが大量に獲れたと言われています。
 この偶然を契機に、桜えび漁は本格化していきますが、厳寒の海上の小型船で、一晩中、漁をしていたことから、明治・大正時代には漁の辛さは「一に北海蟹工船、二に駿河の桜えび」とまで言われていました。

その後、昭和三十年代までは、年間を通して漁をしていました。
 しかし、資源保護のため、静岡県漁業調整規則により、産卵期間の6月11日~9月30日を禁漁期としています。
 さらに、漁業者の自主的な申し合わせで、休漁期も設けています。実際は、3月下旬から6月上旬までの「春漁」、10月下旬から12月下旬までの「秋漁」の2漁期です。

現在、6トンクラスの2そう船ぴき網漁業(中層ぴき)として、60か統120隻が操業しています。
 2隻が対になり、「か統」という単位で数えられます。

プール制操業体制

1977年(昭和52年)から、由比・蒲原・大井川の3町の総水揚げ金を共同で配分しています。
 これは、静岡県内の桜えび漁業を営む船主会員(由比24か統、蒲原18か統、大井川18か統)で組織する静岡県桜えび漁業組合による資源管理型漁業です。資源保護、価格暴落を抑えるための漁獲調整、過当競争による事故防止 ――が目的。

(由比港漁業協同組合の代表理事組合長・宮原淳一さん<左>)(元専務理事で、金比羅丸の船主・望月好弘さん<右> 株式会社橋本組・橋本久明社長の伯父)
(由比港漁業協同組合の代表理事組合長・宮原淳一さん<左>)
(元専務理事で、金比羅丸の船主・望月好弘さん<右> 株式会社橋本組・橋本久明社長の伯父)
●由比港漁業協同組合 静岡市清水区由比今宿字浜1127 電話054(376)0001

由比港漁業協同組合の代表理事組合長・宮原淳一さんは「昭和41年(1966年)3月から"プール制度"を模索した」「仲買人との衝突、廃棄処分、不漁、ヘドロ公害による海上デモなど、紆余曲折があった」と、国内唯一のプール制操業体制の誕生秘話を話します。
 しかし、約40年間続いている制度の根本にあるものは、どの産業界でも参考になることではないでしょうか。

改良が進む漁船と漁具

由比港漁業協同組合の元専務理事で、金比羅丸の船主・望月好弘さんは、1950年(昭和25年)から桜えび漁業に従事してきました。
 「150メートルほど引く、"手引き"が辛かった」と当時を振り返ります。
 「網の引き上げには、1統40人ほどの人手が必要だった」。1958年(昭和33年)にネットローラー(動力網巻き揚げ機)が開発されるまで手引きは続きました。
 ネットローラーの導入で、「半分の人数で網の引き上げができるようになった」。引き上げだけでなく、「網を海中深く沈めることも可能になったし、沖に出かける回数も増えた」。

1960年(昭和35年)から1967年(昭和42年)にかけて、魚群探知機、無線機(トランシーバー)を設置し、漁業無線海岸局も開局。近代化が進みます。
 漁師の"感が頼り"の漁業から、短時間に魚群が探し求められるようになり、闇夜の海上で船どうし、漁協と漁船との交信もできるようになりました。

1976年(昭和51年)に魚網深度機(ネットソンデ)、1983年(昭和58年)カラー魚群探知機、1992年(平成4年)GPS、1998年(平成10年)には吸い込みポンプを導入。また、ほぼ同時期に、漁獲物の鮮度保持のため、水揚げ直後に氷水を用いて桜えびの温度を下げることが全船で行われ、2001年(平成13年)には3町市場保冷庫を完備しました。

おいしくいただく桜えび

(桜えびのかき揚げ)
(桜えびのかき揚げ)

生、素干し、釜揚げ・・・現在、市場へは生(冷凍含む)65%、素干し25%、釜揚げ15%の割合で流通しています。
 かき揚げにしたり、釜飯、煮物、パスタなど、いろいろなレシピがあります。時には、桜えび漁の歴史にも想いを馳せながら、季節や桜えびの状態によって、お好みの味を見つけてください。