今日の長泉町の発展はジオにあり


 2018年ユネスコ世界ジオパークに認定された伊豆半島。伊豆半島というには少し北部に位置する長泉町にも、意外と多くのジオサイトが点在する。子供のころ水遊びをしていた「窪の湧水」、むき出しの溶岩がみられる黄瀬川など、慣れ親しんだ場所がジオサイトとして認定されている。その秘密を「長泉町ビジターセンター」ジオガイドの稲田康明さん(ながいずみ観光協会長)から伺うことができた。

 「この地域は、富士山の影響を受けてできた土地で、町の土地の基盤は溶岩の上にあるという。しかし、富士山の山体崩壊があり、その土砂が流れてきたために溶岩がかなり見えなくなっているが、下土狩地域周辺には溶岩塚という小丘が点在する。全体としては溶岩そのものが見えるのはごく一部だ」と語られた。

旧三嶋駅から乗り換え豆相鉄道
鮎壺の滝(冨士見の滝と呼ばれている)
割狐塚稲荷神社
長泉カルタ長泉ビジターセンター

 しかしここで、伊豆地域でない長泉町がどうして伊豆半島ジオパークに含まれているのか疑問を持つ人たちがいるのではないだろうか。「静岡県の行政の区域割では確かに違うが、土地の成り立ちを考えると、よくわかる。それは伊豆半島そのものが富士山近くまで及んでいることが真相のようだ。さらに地形が生んだ近代文明一つに、明治時代に鉄道が富士山周辺を通るルートに敷設され、当時東海道線の三嶋駅がこの長泉の地 (現御殿場線下土狩駅)にできた事で、豆相線という鉄道も接続し伊豆の玄関口になった。今日でも新幹線三島駅に隣接し、伊豆縦貫道の出発点ともなっていることからも交通の要衝地である長泉。長泉の発展を考える上では、重要なキーワードだ。そして、この交通(鉄道・道路)の要衝地は大地が生んだ賜物に他ならない。しかし、かつては水に困り、日損場と呼ばれる時代があった。浸透性の良い溶岩のため、土地は水枯れし、黄瀬川の水だけでは足りず、箱根の芦ノ湖からトンネルを掘った深良用水によってこの地域が潤った話は有名だ。その後この溶岩の下には富士山の地下水が豊富に流れていることがわかり、今やこの地下水によって地域発展になくてはならないものとなっている。ジオに感謝だ。」と話された。

 ジオサイトをいくつか紹介してもらうと、「まず、一番は『鮎壺の滝』。町中にあり、JRの駅から日本で一番近い滝であり、自然を満喫できる場所で、観光地ではない長泉の中で、明治・大正・昭和の初め頃の観光パンフレットによく登場していた。景勝地でもあり、昔から映画のロケに使われていたようだ。例えば、昭和28年制作の黒澤明監督の『七人の侍』で、主演の三船敏郎がアユを捕まえるシーンがそうであり、この後のストーリーの分岐点にもなっていた。その他にも様々な撮影によく使われていた。また、文学作品では沼津出身の芹沢光治良の『人間の運命』にも登場している。さらに今日伊豆半島ジオパーク内のジオサイトが数ある中で、ネットアクセスランキングが堂々3位だ。近年増加した観光バスもコロナで数少なくなったが、個人客は相変わらず多く訪問している。2年後に新たな鮎壺公園が整備竣工されるので、観光客が増え、賑わいを期待している。

 「次に町中のジオサイトでは、溶岩塚の上に本殿がある『割狐塚稲荷神社』。溶岩の割れ目から狐が飛び出したという謂れがあり社殿も溶岩塚の上に鎮座している。神社周辺をよく見ると、でこぼこした地形(溶岩塚と呼ばれる盛り上がった土地)が何か所見られる。下土狩の地名は土地の尖がりが由来という説もある。数多くある鳥居も珍しい。また、富士山溶岩流の末端に近いが町内で唯一湧き水の場所である『窪の湧水』そして、黄瀬川の中に形成された滝として、『鎧が淵』と『牛が淵』がある。そのほか愛鷹山麓に4か所あり、全部で10か所のジオサイトがある」と説明を受けた。今回ジオの話を伺い、何も知らずに遊んでいた川等がとてつもなく古く大きな歴史と力を持っていること、そして、長泉に限らず、パーク内各所でジオガイドをはじめ地域の人々が情熱を注ぎ大切に守っているからこそ、世界ジオパークとして認定され広く発信されているのだと感じた。

 下土狩駅に隣接した黄色い建物、コミュニティ長泉内にはビジターセンターが設置され、管理しているながいずみ観光交流協会では、ジオサイトをはじめ、観光スポットのかるたを制作して、長泉町の魅力を発信と普及活動を行っています。スタッフがジオパークの事も詳しく案内してくれます。

 JRを降りて徒歩でも巡れる身近なジオサイト。ちょっと訪れてみてはいかがでしょう。