ズームアップインタビュー 『天竜美林の有効活用を目指した林建共働モデル事業』天竜美林と称される天竜の山林

国土交通省の『建設業と地域の元気回復事業』に天竜建設業協会(長谷川智彦会長)が提案し、県内で最初に採択された事業は『天竜美林の有効活用を目指した林建共働モデル事業』。天竜美林と呼ばれる美しい森林資源を活用し、天竜建設業協会、浜松地域森林組合協議会、行政が連携し、効率的な森林整備・木材供給と地域材の需要拡大に向けた流通モデルプランを作成し、試行的に実施する。実施主体は『天竜地域建設業・林業共働モデル検討協議会』を設立し、運営に当たっている。

第1回検討協議会
第1回検討協議会
天竜の森林
天竜の森林

第1回検討協議会

 『路網の整備』、『公共空間で利用し得る間伐材製品の開発』、『民間需要向け間伐材製品の開発と促進』を主体に事業を進め、昨年度は、『林建共働に関する意向調査』、『事例視察』、『現地調査』を実施した。
 『意向調査』では、調査を実施した建設・林業者の半数以上が路網整備などで共に仕事をした経験があり、回答者の9割が林建共働に関心があることが分かった。同時に建設業では林業に対する知識や技術の不足、採算と初期投資費用、林業では上手く連携が取れるかなど不安が挙げられた。


意向調査から分かったこと(集計結果の概要)

  • 半数以上が林・建で一緒に仕事をした経験有り
    路網整備や治山施設の設置が多い
  • 林建共働への関心は林・建ともに高い
    回答者の9割が「関心がある」
  • 地域材の利用は治山工事等で多い
    治山工事(12社中9)、道路工事、河川工事
  • 林建共働に期待することは
    建:雇用、林業の活性化、地域材の利用促進
    林:建設業の機械・技術等の活用、低コストで材を供給
  • 林建共働への不安は
    建:採算と初期投資費用(12社中10)、知識や技術の不足、連携、仕事量
    林:上手く連携が取れるか(11事業体中5)、知識や技術の不足、事故
  • 林建共働で取組みたいことは路網整備 次いで木材の加工・利用、交流等
  • 取組み体制は建設会社と森林組合・林業事業体の協業(共同事業体等)
  • 試行に使ってよい山林がある
  • 天竜地域の山林は、枝打ち・間伐、路網整備が行き届いていない
    原因:価格低迷・需要低下(11事業体中10) ⇒高付加価値化・需要拡大が重要

事例視察

高山視察 開設経緯、資材の入手使用機械などについて説明を受ける
開設経緯、資材の入手使用機械などについて説明を受ける

 事例視察では岐阜県の高山地域を視察した。高山地域では、間伐等への補助率が高く、製材工場や合板工場等流通の目処がある程度たっているため、路網整備により除間伐や出材、消費が進むことが期待されている。一方、天竜地域では間伐等への補助率が岐阜県より低く、路網整備により木材の供給が進んでも、十分な需要の目処が立っていないなど、違いがあることが分かった。

高山視察 研修として開設した林道の見学
高山視察 研修として開設した林道の見学

 木が切り出されて利用される、供給から流通までの流れは、森林経営・管理の集約化→路網整備→販路拡大と安定供給→公共・民間などでの需要の喚起となる。この流れの中で、建設業がどのように共働事業者として係わっていくかを考えると、建設業の仕事に直結する路網整備だけでなく、需要の拡大、販路拡大などどれも不可欠な要素である。

今後の進め方に関する検討事項

公共空間での利用し得る間伐材製品の開発

 3つの要素のうち、『公共空間での利用し得る間伐材製品の開発』では、市の土木事業の状況や要望も踏まえて製品を開発していくと同時に、施工者・管理者等が求める、意見を反映させた商品化も検討していく。また、『民間需要向け間伐材製品の開発と販売促進』では、住宅・家具・木工製品など市場や施工者等が求める製品の選定や仕様を検討するとともに、ポスターやチラシ等の販売促進ツールの作成、需要拡大に向けた住宅メーカー等への売り込みも進めていく。

1 「路網の整備」

取組内容:
建設会社による天竜地域に適した路網を整備するため、森林組合の指導のもとで(又は外部から講師を招いて)試行的に整備。併せて、林内作業の安全管理の向上を図る。
検討事項の例:
  • 知識・技術の習得
    (森林組合の指導又は講師を招いての路網整備、建設業・林業の防災ノウハウを共有する安全管理研修)
  • 建設機械の改良検討
    (路網整備・支障木の集材等に適した機械へ改良)
  • 事業地の選定
    (候補地の比較検討、現地調査と事業地選定)
  • 共働体制のあり方の検討
    (例:協同組合の設立、事業区分の明文化 等)

2 「公共空間で利用し得る間伐材製品の開発」

活動内容:
公共空間(特に土木資材等)で利用し得る地域材利用製品の開発に取組む。
検討事項の例:
  • 需要のある製品の選定
    (デリネーター?ガードレール?車止め? 市の土木事業の状況・要望も踏まえて開発する製品を選定)
  • 施工者・管理者等が求める仕様等の検討
    (行政や建設業側の意見も反映させた製品開発の試行)

3 「民間需要向け間伐材製品の開発と販売促進」

活動内容:
民間需要が期待できる地域材利用製品の開発や、既存製品の販売促進方法の改善に取組む。
検討事項の例:
  • 市場や施工者等が求める製品の選定・仕様等の検討
    (住宅?家具?木工製品? 市場動向と建設業・メーカー等の意見も反映させて開発する製品を選定)
  • 販売過程の改善
    (ポスターやチラシ等の販売促進ツールの作成、需要拡大に向けた住宅メーカー等への売り込み)

路網整備

『路網整備』では、建設業者の林業に対する知識・技術を習得などを検討していく。

木製路肩構造物 現地発生材
木製路肩構造物 現地発生材
県営作業道
県営作業道

 佐久間町で現地調査が実施され、路網整備を行う事業地選定のため、候補地の確認が行われた。また、『第1回路網整備研修』も開催され、県、浜松市から講師を招き、林道・作業道の開設について説明を受けた。夏には行政、森林組合と協力し、現地で実際に作業道を施工するまでが行われる。

第1回路網整備研修
第1回路網整備研修

 天竜建設業協会の長谷川会長は、「公共事業が減少していく中、今回の事業は異業種との連携を図っていく事業。今まで、設計書の指示に従って施工のみを行ってきた建設業が、この事業により業界から提案する建設業になることが目的の一つ。浜松市、森林組合と共働することで地元の森林についてもう一度考え直す良い機会となっている。各社の方針にもよるが、多方面へ事業が発展し、地域の森林整備の手助けとなり、地元の活性化に繋がればと考えています」と公共事業減少への対応と、森林資源を活かした地域の活性化について大きな期待を寄せている。
 今後、2011年3月の最終的な事業成果取りまとめに向け、製品の検討・作成などの作業に取り掛かっていく。

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