ちょっと紹介特別編


有川浩さん原作の「フリーター、家を買う。」がこの秋、テレビドラマ化されていますが、ご覧になった方、いらっしゃいますか?
「家を買う」という題名ですが、なぜか建築よりも道路工事の話ばかりで構成されています。そうした建設現場で働く「フリーター」が主人公だからです。
私は、今でこそ一級建築士などと名乗っていますが、実を言うと元フリーターです。大学を卒業しても定職に就かず、自転車旅行ばかりしていました。旅先で資金がなくなるとアルバイトで食いつなぎます。東京ではガス会社の飯場にもぐりこみました。そこは夜間工事専門でしたが、不明な地下埋設物などが見付かると埋め戻しが遅れて、夜が明けてしまうこともありました。そうなるともう通勤、通学の時刻です。探傷試験が終わるのを待ちながら、歩道の隅でゴロ寝していた時、小さな子どもの手を引いた女性のヒソヒソ声が聞こえてきました。 「〇〇ちゃん、お勉強しないとあんな風になっちゃいますよ」
いやあ、お勉強して大学も出たけれど、こんな風になっちゃったんですよと苦笑いしました。主人公の気持ちが良くわかります。本人は夢を追ってるつもりでも、世間から見りゃ立派な「ダメ人間」ですからね。
初回は10月19日の放映でした。視聴率は17%を超えたようですから、秋の新ドラマの中では最高のスタートです。まずはそんな第1話を紹介します。
フリーター台本
台本
主人公の武誠治(二宮和也)はフリーター。大学を出た後、就職はしたものの3ヶ月で退職。再就職先も決まらずハローワーク通いの毎日。そのハローワークの職員(アンジャッシュ児嶋)に「希望賃金を下げないと、そんな高望みはムリです」と蔑まれ、それでも実力重視のIT企業の採用試験にこぎつけるが、周りの受験者のタイピングの早さに圧倒される。
もちろん不合格。ヤケになってひとりカラオケする誠治。そんな誠治の父親の誠一(竹中直人)はとある商社の経理部長。団塊の世代の例に漏れず、会社一筋のサラリーマン。その父親に「食費ぐらい入れろ」と一喝されて、バイトを始めるが、相変わらず長続きはしない。とうとう部屋に引きこもり、ゲーム三昧の自堕落さ。この辺りまではただの「イタイ奴」にしか見えない誠治が、心から変わるきっかけになるのが、母親の寿美子(浅野温子)の自殺未遂事件だった。
第1話ではまだうつ病の発症が告げられただけだが、その深いストレスの原因はニート化する息子だけではなかった。一流企業の借り上げ社宅に住み、住宅ローンの心配をもたない誠一の心無い言動が、隣近所に嫉妬の渦を巻き起こしていたのだ。
「ごめんなさい。今日も死ねませんでした。今日も死ねませんでした」そう呟き続ける寿美子。その母親を見て、誠治は再就職の準備資金を貯めるため、日給のいい建設現場でのバイトを始める。ろくに体力のない誠治に肉体労働はきつい。一輪車で土を運ぶのだがヨロヨロで見ていられない。とうとう転んでしまう誠治に冷たい雨までが容赦なく降り注ぐのだった…。
撮影風景
フリーター撮影中
実はNEXCO中日本さんの協力で、第二東名の建設現場を借りてロケをしているのですが、私が所属するNPOで、この雨のシーンの撮影のお手伝いをさせてもらいました。(高所作業車の上から、ジャブジャブとホースで水を撒いただけですが…)
そのNPOは「フィルムコミッション富士」といいます。
フィルムコミッションというのは、最近はやりの、「映画撮影などを誘致することによって地域活性化、文化振興、観光振興を図るために設立される団体」です。地方公共団体の一部署が事務局を担当していることが多いのですが、富士市の場合は純粋に民間のNPOです。
全国で100を超える同様の団体が設立され鎬(しのぎ)を削っていますが、フィルムコミッション富士には首都圏からの近さと、富士山をバックにした絶好のロケーションという強みがあります。「このシーンでは雨がほしいなあ」なんていう、急な現場サイドからの要望にも、きめ細かく対応して、好評をはくしているところです。
現在進行中のドラマについて詳しく報告することは出来ませんが、昨年度だけで40本のロケを受け入れています。実は、この夏公開されたディカプリオ主演のハリウッド映画「インセプション」の撮影にも協力しています。
海外の監督さんには「日本といえば富士山でしょ」という思い込みがありますので、それを利用しない手はありません。とくに「富士山と新幹線」という組み合わせは大人気です。(何故かガイジンさんは鉄仮面と呼ばれる300系や、鋭く尖った500系が好きです)
ロケ割り本
ロケ割り本
「フリーター、家を買う。」の第2話は10月26日の放送でしたが、今後は寿美子のうつ病を引き起こした「町内の陰湿なイジメ」が描かれるはずです。原作を読んでいるので、幸せな結末を知ってはいますが、まだ当分の間、くらーい話が続くはずです。最初からどうしてこんなに視聴率が高いんですかね、不思議なくらいです。
原作では、就職に失敗した経験を生かして、主人公は「採用係」に抜擢されます。ふるいに掛けられる側から、ふるいに掛ける側に回ることで、やっとなぜ自分が就職できなかったのか、なぜバイトも長続きしなかったのか、その理由に気づき、誠治は大きく成長していきます。その成長の過程で父親と和解し、後輩に慕われ、生きがいを見出していくようになります。
ドラマの台本も最後まで読ませてもらいましたが、「建設業バンザイ!」という話ではありません。あいかわらず「きつい・汚い・危険」という描かれ方をしています。労災事故にあった作業員(丸山隆平)が「俺って建設作業員しか出来ないから」とつぶやくシーンもありました。たぶん「dokata」という言葉は放送禁止用語なんでしょうね、会話が微妙に不自然で苦笑いさせられます。そんな中、自分たちが造った道路を誇らしげに眺めるシーンに救われた気持ちになりました。誠治は結局、大悦土木というバイト先に就職し、建設現場の「その先にあるもの」を探し始めます。
夢を持てないことを他人のせいにして、世の中が悪い、政治が悪いとぼやいてばかりいる、そんな若い人たちにこのドラマを見て欲しいと思います。母親が自殺してから気づいたのでは手遅れですから…。
これは「元」フリーターの主人公が、陰湿なイジメが繰り広げられる「ご町内」から脱出するために、父親と協力して新しい家を買う、という物語です。
第二東名
第二東名のインターチェンジ建設現場。ここで「フリーター、家を買う。」のロケが行われています。

※この原稿は平成22年11月25日に執筆していただきました。

勝山理事長
勝山理事長(富士ニュース)
フィルムコミッション富士は、映画・テレビドラマ・コマーシャルなどのあらゆるジャンルのロケーション撮影を誘致し、実際のロケをスムーズに進める為の非営利団体です。国内ばかりでなく国際的なロケーション誘致・支援活動の窓口として、地域の経済・観光振興、文化振興に大きな効果を上げていく事を目的としています。
フィルムコミッション富士の活動は、主に富士市を中心にその周辺でロケ支援を行っています。フィルムコミッションの活動内容は主に富士市のPR活動、いわゆるシティープロモーションです。ドラマや映画、プロモーションビデオ、CMなどを誘致し放映されることで、富士市を対外的にPRし、富士市の観光や街のブランド化につなげていきます。
フィルムコミッション事業のメリットは大きくは4点あります。
  1. 当該地域の情報発信ルートが増えます。
  2. 撮影隊が支払う「直接的経済効果」が見込まれます。
  3. 映画やドラマと言った作品を通じて観光客が増え、観光客が支払う「間接的経済効果」が見込まれます。
  4. 映像制作に関わる事を通じて、地域文化の創造や向上につながります。
台本(Gold・交渉人・シバトラ・絶対零度)
台本(Gold・交渉人・シバトラ・絶対零度)
ここでは、2.の直接的経済効果についてお話します。撮影隊が富士市を訪れることで発生する支出として、宿泊の為や控室の為のホテル代、撮影中のお弁当代、コンビニ、スーパーなどがあります。その他にも、役者や監督が使うタクシー、撮影の為の警備員、撮影後やロケハン時の飲食などがあります。最近では、ハイライダーや散水車、トラック、工事用トイレや重機のレンタルやオペレーターの手配オープンセットを建てたり足場の依頼も増えてきました。
不毛地帯撮影中
不毛地帯撮影中
建設業界で働く皆様も映画やドラマは決して遠い存在ではなく、身近なクライアントとして感じて頂けると思います。秋のクールで放送中のフジテレビ連続ドラマ「フリーター家を買う」では、工事作業員役で、嵐の二宮くんと香里奈さんが主演し富士市内の新東名建設現場で撮影が行われました。このドラマは設定が新東名工事現場で働く土木作業員だったので、まさに地元業者に上記の物を手配し撮影が行われました。このドラマ以外にも、ハイライダーやオペレーターの方は撮影に欠かせません。
ゴールド撮影現場
ゴールド撮影現場
本年度(4月~11月)では、ロケの依頼数110件、成立件数32件と順調です。経済効果においても、お弁当7700食、ホテル宿泊580室、直接的経済効果1380万円に達しています。
フイルムコミッション事業は単にお金を稼ぐ事を目的としているわけではありません。しかし、街の経済活性化の新しい媒体としても意味のある事業だと考えています。
富士市において、映画やドラマのロケが撮影されるようになって、まだ日は浅いですが、こうしたロケが市民の皆様にとって楽しみの1つになるように、さらには地域の経済や観光振興、文化振興につながり、市民が誇れる活力と夢のあるまちづくりを進める一助になれるよう、フィルムコミッション富士は活動して参ります。
今後とも、ご理解とご協力をお願い申し上げます。