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都市をツーリズムの視点で研究する

村山 めい子さん

 三島市の日本大学国際関係学部専任講師。早稲田大学ホスピタリティー研究所客員研究員、英国サリー大学博士(Ph.D)。東京都生まれ、国際基督教大学大学院博士後期課程修了。「三島に来たら、富士山が毎日見えると思っていました。そうじゃないんですね。富士山て、とても恥かしがりや」

聞き手/小野  徹 県建設業協会広報部会委員
小野建設(株)社長・三島協会
都市はいつでも再開発
Tourism わたしの研究は都市観光論
小野− 村山さんは「都市観光論」っていうのを専攻しているんですよね。「都市観光論」て一体どういう学問なんですか。「観光地の観光論」ならわかるんですが、「都市の観光論」。ピンとこない。
村山 でしょうね。「ツーリズム」という研究自体……
小野− ツーリズムって、あの旅行とか観光という意味の。
村山 はい、そうです、ツーリズムです。わたし、イギリス第2の都市・バーミンガムとロンドン郊外のギルフォードでツーリズム・レジャー学を4年間勉強したんです。イギリスは観光という言葉は使わずに、ツーリズム(tourism)っていう言葉を使っているんですよ。バーミンガムはイギリスの産業革命の発祥地の一つですよね。一時期は世界の工場だったんです。それがイギリスの問題児といわれるくらいに落ち込んでしまったんです。それでどうしたかというと、都市の再開発の一つとしてツーリズムというものを打ち出して再建しているんです。
小野− ちょっと待ってください。いまは観光論の話で、都市の再建の話では…。
村山 もう少し待ってください。普通みなさんは、観光というと海辺や湖、温泉地や豊かな自然をイメージすると思います。どちらかというと「遊び」、レジャーとかプレジャーを想像しますよね。でも、ツーリズムってそれだけじゃないんです。ちょっと堅い話になりますが、ツーリズムの定義には、自分が日常的に暮らしている空間、自分が住んでいるところとか働いている空間から一時的に離れて、そしてまた戻ってくる、その一連の行為や行動や現象を含めているんですよ。ただし、季節労働のように給料を得ることを主たる目的とする場合は除かれますが。ですから、遊びや観光だけではなくて、出張、研修旅行や視察旅行、私たち研究者の学会、そういったものもツーリズムなんです。「観光」だけじゃないんですね。(注 ツーリズムの定義はいくつかあり学者間でも一致していないのでこの定義は一つの代表的定義=村山)
 


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 (写真提供:村山めい子さん)
小野− なるほど、2、3日かけてゆっくり楽しみながらどこかに泊まってのんびりするだけが観光、ツーリズムじゃないということですね。もうひとつ、都市とそのツーリズムっていうのはどう結びつくんでしょうか。
村山 はい。それで、「日常の空間から離れて…」といったことで都市を見た場合、都市ってたくさんの人がいろいろな目的で集まってきますよね。東京がいい例です。ビジネスで来る人、会議で来る人、何かの視察に来る人、親類や友人に会いに来る人、遊びに来る人、ほんとうにさまざまです。東京は日本の一大観光地ですね。都市の持つそういった面をツーリズムを通して研究してみようというのが、わたしの専門の「都市観光学」「アーバン・ツーリズム」なんです。そのなかでもわたしは、都市の再開発をレジャーとかツーリズムの視点から研究しているんです。
Birmingham 都市の売り出し方
小野− なるほど、ようやくわかりました。それで元に戻ってバーミンガムの話ですが、ツーリズムからみたバーミンガムって、どういうことなんでしょうか。
村山 バーミンガムは、ビジネス・ツーリズムで都市を再建し、活性化させているんです。その中核として建てたのがコンベンション・センターです。バーミンガムは、1960年代、70年代に産業が落ち込んでもまだまだ大丈夫だと思っていたんです。でも、オリンピックの開催地に立候補して落選したときに、市役所の人は「バーミンガムって、そんなにひどいと外から見られているのか」って、思い知らされたんです。それで、「これはいけない、考え方を変えなければいけない」って、「じゃ、どうしらいいのか」って考えはじめたんです。イギリス国内外から専門家を呼んで「(バーミンガムは)何をまちがったのか、どうすればいいのか」、市内を視察してから提案してもらって、実行したんです。また、それまで負の遺産として見ていた運河をきれいにして、その運河沿いを歩けるようにしたり、会議場、コンサートホール、イベントホール、展示場、ホテルなどが合わさった複合的な施設であるコンベンション・センターを建て、街を再生しているんです。
小野− 村山さんのお話を聞いていると、どうも観光学ではなくて、都市再開発学、都市再生論。
村山 そうですね。都市の開発・再開発をツーリズムの視点から見ていこう、人が楽しむスペース、レジャーのスペースとして使っている空間を研究しているんです。一例をあげると、ショッピング・モール、美術・博物館、シネマ・コンプレックス、飲食施設、各種のアトラクションやエンターテイメントなどが再開発されている空間にどう使われているのか。年間3,700万人余りが訪れる東京のお台場の分析などです。都市の売り方、経済の多角化・活性化にツーリズムがどう使われているかっていうことです。広い意味での都市マーケティング論といってもいいかもしれません。
Image 伊豆と三島
小野− そうか、都市マーケティング学、このほうがぴったりで、わかりやすい。それで、村山さんのツーリズム、都市観光論や都市マーケティングとして伊豆を見た場合どうでしょうか。私たちはいままで伊豆をいわゆる「観光地」としてしか見ていなかったんですが。
村山 ツーリズムには、いろいろなモチベーションがありますが、たとえば「伊豆に行ったよ」と言って、どれくらいの人が自慢するでしょうか。いまだったら、たとえば大阪のユニバーサルスタジオに行ったと言ったら「ワー、すごいね」って言われるでしょう。でも、伊豆に行ったと言って「ソー、ワー、すごい」って言われるでしょうか。旅行に行くとき、ちょっと自慢ができる所、そういう所に行きたいという気持ち、わたしたちにあると思うんです。いまはイメージが大切なんですよね。伊豆ってどんな特色を持っているのかしら、伊豆はどんなイメージがもたれているのでしょうか……。もしそれが希薄だったり、いいイメージを持たれないようでしたら、イメージをつくり直さなければならないんです。伊豆とバーミンガムは、まったく異なる性質を持つ地域で比較できませんが、バーミンガムが長らく落ち込んだままだったのは、工業都市としての成功体験が長かったからです。現実を把握できなかったのです。だから変わることがなかなかできなかったのです。伊豆は観光客から、外からどう見られているのか、伊豆の人たちが実感する必要があると思うんです、まず。その他にもいろいろしなければならないこともあるでしょうが……。
小野− まず、ね。
村山 バーミンガムの人たちは、それが最初のステップだったんです。伊豆の人たちは、もしかしたらまだ深刻に危機意識を持っている人が少ないかもしれません。まだまだやっていけると思っているのかもしれません。
小野− 村山さんに言わせると、伊豆は「ときめき」「ときめかせるものやこと」がない。
村山 伊豆をほかの温泉地から際立たせるものって、どういうモノやコトなんでしようかね。
小野− バーミンガムの成功体験と同じ、気候がいい、食べ物がうまい、温泉がある、昔だったらそれだけでもよかったんですがね。
村山 でも、いまはそれだけでは…。都市マーケティング論からすると、伊豆のイメージを自分たちで練り直し、自分たちで発信していく、そういう時代だと思います。
小野− その新しいイメージを作り出していく素材を探さなくては。
村山 ええ、それは絶対にあるはずです。考えるんです。探すんです。
小野− 伊豆といわず、静岡県は、自然は豊かですし、まあまあ食べ物もうまい、歴史もある。素材はある。でも、なにかきらびやかさかない、ときめきがない。
村山 わたし、伊豆への基点の三島にきてびっくりしたのは、楽寿園のなかにある小浜池に行ったときです。写真では清水が満々なのに……、でも、実際は小さな水たまりがあるかないか、という感じでした。三島は、街中いたるところに湧水が豊かに流れていたという歴史的風景というんでしょうか、そういうものがあったんです。いま、失ってしまった三島の原風景を市民が一生懸命リバイバルしようとしています。先ほどの“イメージ”ということでは、三島はやはり「水」でしょうか。それをもっともっと大きくプロモーションすべきじゃないかなって。菰池公園や桜川で、つまり街中でカワセミを見ることだってありますし、源兵衛川にはトンボがたくさん飛んでいたり、ホタルもいます。ほんとうに心が豊かになります。三島にしかないすばらしさがいっぱいあるんです。そういったところからイメージを固めていけばいいと思うんです。三島が中小の都市だからといってリトル・トーキョーになる必要はありません。やはり、地域に根差した、風土に根差したものを核とすべきです。
小野− 単に観光のためだけじゃなくて、わたしたち三島市民も街の共有財産としてそれを大事にしなければいけませんね。
村山 そうなんです。住民にとっても魅力的なものだったら、自分も行くし、友人や親戚が遊びに来たときもきっとそこに連れて行くと思うんです。単に観光客のためのものだったら、地元の人は何度も行かないはずです。みんなが共有できる財産じゃない。わたしは、観光資源を開発する際、地元の人も楽しめる、そこで仕事をしている人も楽しめる場でなくてはならないと思うんです。外から来た人たちだけが楽しめて地元の人が楽しめなかったら、それは本当の「観光資源」じゃないって思うんです。
Redevelopment 都市はいつでも再開発
小野− おっしゃるとおりです。もうひとつ、これからのまちづくりの概念みたいなことはどのように思っていらっしゃいますか。
村山 都市ならば、街であるなら常に再開発なんですよね。新しい都市、古い都市にかかわらず、大都市、中小都市、日本の都市、世界の都市、どこでもいつでも継続的に再開発です。そういったなかで、これからは、だれがどんな目的でつかうのか、ということも考えて人間を大切にした空間をつくらなければいけないと思いますよ。もしかしたら日本は、高度経済成長やバブルのとき、ある意味では間違った方向へ進んだのかもしれません。ある意味では必要だったんですが、だけれども今のような状態になってみると、ここは間違っていた、ここはもっと改良できるっていうことがわかってきました。過去の経験を踏まえて、次のステップに進むべきですよね。
小野− つまりは、わたしたちの街はどこに向かっているのか、向かおうとしているのか、そこでなにをやろうとしているのか、はっきりとイメージするっていうことが大事なんですね。ありがとうございました。
 
都市の再開発、まちのにぎわいなどで話がはずむ
村山さんと小野委員
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