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取材に対応していただいた杉本嘉章危機管理監

 富士山火山防災対策協議会は、2004年6月以来17年ぶりに富士山噴火災害予測のハザードマップ(以下、富士山ハザードマップ)を改定し、3月26日に公開した。陸上自衛隊時代に新潟県中越沖地震や東日本大震災の災害派遣を経験し、現在は御殿場市役所危機管理監として災害対策業務に携わる杉本嘉章氏に、改定ハザードマップのポイントや激甚化する自然災害への対応などについて話を伺った(聞き手:静岡県建設業協会総務・広報委員会委員長 佐野茂樹氏、同副委員長 三尾祐一氏、同委員 勝又 惠一郎氏)。

委員富士山ハザードマップとはどのようなものでしょうか。

杉本氏火山災害要因の影響が及ぶおそれのある範囲を地図上に特定し、視覚的に分かりやすく描画したものです。噴火によって流れてくる溶岩流・火砕流・噴石などの火山現象がもたらす影響や被害を数値シミュレーションなどによって描いた「ドリルマップ」と、ドリルマップを合わせて作図した包絡線により火山現象の最大範囲や最小到達時間を網羅的に可能性領域として示した「可能性マップ」の2種類があります。火山防災対策をする上での重要な基礎資料として、避難計画の作成や避難訓練の実施に活用されています。

委員改定の経緯と具体的な改定点を教えてください。

杉本氏2004年版の策定から10年以上が経過し、科学技術が大きく進歩したことから2018年より改定作業を進めてきました。具体的な改定点としては以下のものが挙げられます。①対象とする噴火の年代を「3200年前~現代まで」から「5600年前~現代まで」に拡大。これまでに発生した175回の噴火を詳細分析 ②地形メッシュサイズを現行の「200mメッシュ」から「20mメッシュ」に変更。より詳細な地形データを反映 ③大規模噴火の溶岩噴出量を「7億立方m」から「13億立方m」に変更。毎秒あたりの噴出量を大・中・小のシミュレーションごとに再設定 ④火砕流噴出規模を「240万立方m」から「1000万立方m」に拡大。火砕流シミュレーションによる想定到達範囲と積雪観測に基づき、融雪型火災泥流のシミュレーション条件を検討

杉本危機管理監にインタビューする委員

委員今後ハザードマップはどのように活用されいくのでしょうか。

杉本氏同協議会では、改訂ハザードマップにおける想定を反映した「富士山火山広域避難計画」を2021年度末までに策定予定です。これを受けて市町村では、「防災マップの作成・配布」や「避難計画の作成」、「広域避難訓練の実施」などの各種施策を地域住民の皆さんや事業者の方々と連携しながら進めていきます。

御殿場市の防災上の特性を表すハンドサイン

委員近年日本での自然災害が激甚化しています。地域防災において一人一人が心掛けることは何でしょうか。

杉本氏防災において大切なのは、自分たちの暮らしている地域の地形をよく知ることです。御殿場市は市内中央部の分水嶺や東富士・六郎川の2つのダムでの治山治水で河川の氾濫が起きにくいというメリットが有りますが、旧国道246号線から吹き込む東の風と須山街道からの西風が市内中心部で合流することで、過去に大きな被害を出しています(2018年台風24号、2019年台風19号など)。私は災害被害を生むメカニズムを「静的な地形×動的な気象=災害→災害×人・物×運=被害」と捉えています。被害を軽減するためには、①普段から地形や気候条件などを分析・研究すること ②自分・家族・近所の人々の構成や健康状態などを知っておくこと ③逐次変化する環境に対して即断・即動できること の三つの心掛けが重要です。市としても「地を知り・危険を知り・我を知り、大切な市民の命を守る!」の理念の下、地域防災に係る知識や情報を防災教室などを通して、市民の皆さんにお伝えしていきたいと思います。

委員防災活動において建設業協会へ期待することはありますか。

杉本氏災害発生直後の人命救助(がれきの撤去等)、初期~後期にかけての仮設住宅建設やインフラ復旧など、建設業協会には様々な状況での支援・協力をお願いすることになります。その際に行政機関との連絡をスムーズにするためにも、日頃からコミュニケーションを取り、お互いの顔と名前を知り合っている状態を作ることが望まれます。また、社員の能力やその家族の安否、重機などの建設資機材の稼働状況(破損の有無、燃料の確保)を正確に把握していることで、支援要請への迅速な対応や現場での十分な能力の発揮が可能になります。復旧活動にはヒト・モノが欠かせません。行政と協会はもちろん、地元消防署や警察、自衛隊などの持つ人員(マンパワー)・機材(マシンパワー)を連携することで「マンパワー・マシンパワーの地域一体化」を図り、速やかな復興を目指します。

市建設業協会が参加した御殿場市総合防災訓練の様子

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