本吉原駅に入線する岳南鉄道7000系電車

鉄道ファンやファミリー層に大人気の岳鉄運転体験

夜景電車・ナイトビュープレミアムトレイン

岳鉄ナイトウオーク

　富士市内の吉原駅から岳南江尾駅までの全10駅（沿線全長9.2km）を結ぶ岳南鉄道線。その路線を最高速度約45キロで緩やかに走る“のどかな電車”の岳南電車（通称・岳鉄）で、今年4月から実際に運行している車両の運転体験ができるイベントが始まり、鉄道ファンやファミリー層を中心にとてもにぎわっています。全ての駅から富士山を眺めることができたり、「夜景電車」として夜の奥深さを楽しんだりできる岳鉄の新たな魅力になりつつあります（取材は5月20日に行いました）。

　運転体験は実際に運行している車両1両を使い、吉原駅構内の旧貨物線で汽笛を鳴らしてから、停止位置でブレーキを止めるまでの約100m区間を運転できるイベントです。毎月の指定の土曜日に午前の部と午後の部に分けて2回催しています。定員は各回6人までで、募集対象は身長130cm以上の小学5年生以上です。応募者が多いため、事前予約が必要になります。

　子どもや「電車でGO!」の親世代に大人気で、予約開始日には完売してしまうようです。「運転体験は新たな目玉企画になっています。少しでも多くの方々に楽しんでいただけるよう、定期開催していくとともに定員枠も広げたいと考えています。このイベントを機に岳南電車に愛着を持つ子どもたちが増えてくれたらうれしいです」（岳南電車（株）石井謙一社長）

　このイベントは、2021年にクラウドファンディングで集めた資金を吉原駅旧貨物線の設備改善費用に充てて実施しました。岳南電車（株）社員の方が企画したものですが、きっかけは、「多くのお客さまから寄せられていた『電車の運転体験をしてみたい』という要望を何とか実現したい」という思いからでした。

　岳南電車は運転体験以外にも、車内照明を消灯して運行する「夜景電車」や、国の登録有形文化財に登録された本吉原駅から比奈駅まで約2.4kmを歩く「岳鉄ナイトウォーク」も人気の企画です。こうした企画の中には岳南電車を支援する、心強いボランティアサポーターからの持ち込みもあるようです。

　コロナ禍を契機に、岳南電車の年間利用者数はピーク時約80万人だったのが、20年には約62万人まで落ち込んでしまったそうです。しかし、根強いファンやサポーターの支え、利用者の期待に必死に応えようとする社員の熱意によって、直近の鉄道利用者数は約70万人にまで回復しました。「こんなに地域の人たちに岳南電車を支えてくださっていることに、本当に感謝しています。鉄道の運行、企画に関しては引き続き安全第一を最優先で取り組んでいきます」（石井社長）

　富士市の地域公共交通計画では岳南電車を、都市の核と地域生活拠点を結び、幹線と周辺エリアを接続する「枝線」としての役割を担う公共交通に位置付けています。

　今後の展望について石井社長は、「行政と市民の皆さんにご支援、ご協力をいただいて、この鉄道は走っています。SDGs推進企業として、地域と連携してにぎわいの創出に貢献したいです。また、沿線の通勤通学等にご利用していただけるお客さまはもちろんのこと、沿線以外の市民の皆さまや観光客など新たなお客さまを呼び込めるよう、更なる他社に無いイベントの充実や地域と連携した特色のある駅づくりなど路線の魅力向上を推進し、利用客や富士市への来訪客増加に努めていきたいです」と語っています。

本吉原駅に設置した国登録 有形文化財の登録プレート	岳鉄の魅力を語る岳南電車（株）の 石井謙一社長（当時）	取材後の記念写真。右から一般社団法人静岡県建設業協会総務・広報員会の三尾祐一副委員長、岳南電車（株）の石井謙一社長、富士市の鈴木幸司市議会議員