聞き手:三尾祐一委員長

 戦国時代の終わり頃に徳川家康の命により建設が始まったとされ、現在も利用されている北山用水が、昨年11月に国際かんがい排水委員会(ICID)国際執行理事会で「世界かんがい施設遺産」に登録されました。また、地域の農業を支えている北山用水では、豊富な水量と落差を利用した小水力発電が行われており、二酸化炭素を発生しないクリーンな電力が生み出されています。富士宮市北山用水運営協力委員会の石川雅洋会長、富士宮市役所の担当職員、東京発電株式会社の社員の方々から、北山用水の歴史、世界かんがい施設遺産への登録経緯、富士宮市内の小水力発電の状況などをお聴きするとともに、関連施設を見学しました。

 世界かんがい施設遺産とは、かんがいの歴史や発展を明らかにして理解醸成を図るとともに、かんがい施設の適切な保全に資するため、ICIDが認定・登録する制度です。2023年度までに国内47施設が登録されています。富士宮市によると、北山用水の登録では、通水から400年以上の歴史や、建設工事で用いられた土木技術、クリーンエネルギーなどの点が評価されたようです。

 北山用水は、建設の経緯から別名・本門寺用水とも呼ばれ、富士宮市内野地先を流れる一級河川芝川を水源とする総延長約10キロ、かんがい面積約110ヘクタールの農業用水路です。1582年に徳川家康は武田軍との戦いに向かう際に、本門寺9世貫主日出上人(にっしつしょうにん)から御本尊を借りました。その後、武田軍との戦いに勝利した家康は、日出上人より用水路開発の願いを聞き入れ、家臣の井出志摩守に開削を命じて、約3カ月半で通水させたと伝えられています。

 北山用水の起点は横手沢地区で芝川に取水門を設けることにより始まっています。そこから猪の窪川、芝山地区邯鄲沢、潤井川をサイフォン方式により通過し、上井出まで流下しています。資料によると、用水路には、富士山麓の7つの浸食谷を横断するため、石材の箱樋を埋めて通水する3基の埋樋、木製の箱樋を掛けて通水する3基の掛樋と、1基の開渠樋を設けたそうです。この工法は、当時の利水工事において革新的だったとされています。

 富士山の湧水に恵まれた富士宮市では、芝川や潤井川から引かれた用水路などの水を利用して、古くから水力発電事業が行われてきました。富士宮市第5次総合計画では「富士山の自然と調和した循環力あるまちづくり」に向け、地域特性を生かした小水力発電(出力1000キロワット以下)を推進するとしています。現在、富士宮市内の水力発電所全31カ所の内、小水力発電所は17カ所で、その合計最大発電出力は約6984キロワットになります。この富士宮市内小水力発電所の箇所数と最大発電出力の合計は現在、日本一となっています。

 北山用水を利用した小水力発電所は4カ所有り、いずれも2019年(令和元年)に新設されました。最も発電出力が大きいのは、東京発電株式会社運営の小水力発電施設「しずぎんアクアエナジーパーク家康公用水発電所」です。最大発電出力は158キロワット、年間発電電力量は110万キロワットで、一般家庭300世帯に使用する電力量に相当するようです。今年3月に地域に愛されるデザインにリニューアルされ、記念式典が催されました。

 北山用水の維持管理は、富士宮市北山用水運営協力委員会によって、定期的な土砂清掃や草刈りが実施されています。特に、草木が繁茂する夏場の7月に行う清掃活動では、運営委員会と地元住民約300人が参加して汗を流すそうです。
 富士宮市北山用水運営協力委員会の石川会長は、「世界かんがい施設遺産の登録をきっかけに北山用水の認知度は確実に向上していると感じます。最近では静岡県内の農林大学校の先生が見学に訪れてくれました。後世に遺していくため、これからも維持管理に励みたい」と語りました。

 関係者のご協力の下、北山用水の関連施設として、芝川からの取水口、猪の窪川や大沢川を渡る埋樋、家康公用水発電所の取水口、家康公用水発電所、大久保沢を渡る掛樋などを見学しました。

●世界かんがい施設遺産登録 記念碑

●芝川からの取水口

●芝川から取水している様子(動画)



●猪の窪川を渡る「埋樋」


●大沢川(潤井川)を渡る「埋樋」


●家康公用水発電所 取水口

●北山用水から発電所へ取水している様子(動画)

●しずぎんアクアエナジーパーク家康公用水発電所


●大久保沢を渡る「掛樋」

関係リンク
●富士宮市
 北山用水
 「徳川家康と本門寺堀」
 北山用水が「世界かんがい施設遺産」に登録されました
 「日本一小水力発電のまち」富士宮

●静岡県
 「東部地域施設概要:北山用水」

SBSニュース「徳川家康公が造った「北山用水」を利用 小水力発電施設リニューアル披露」

●取材協力
・北山用水運営協力委員会 会長 石川雅洋 様
・富士宮市役所 都市整備部 河川課長 野村治男 様
・富士宮市 市民部 北山出張所長 佐野孝明 様
・東京発電㈱ 三島事業所長 杉山昌樹 様
・富士宮建設業協同組合 事務局長 望月明彦 様

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