二つの日本一をもつ「柿田川」

 日本には数多くの美しい川がありますが、中でも高知県の四万十川、岐阜県の長良川と並ぶ日本三大清流のひとつに数えられるのが、静岡県東部の清水町にある「柿田川」です。

 柿田川は、富士山の麓、清水町のほぼ中心部を南北に流れる狩野川の支川で、その全長は約1.2キロメートルと日本一短い一級河川(国土交通省直轄管理)です。しかし、この短い柿田川ですが、1日に湧き出る水量は100万トンにも達し、これは富士山周辺の1日あたりの地下水量の2割に相当し、日本一の湧水量を誇ります。

柿田川の湧水の秘密

 柿田川は湧水を水源とする「湧水河川」です。富士山の噴火で流れ出た三島溶岩流は、愛鷹山と箱根に挟まれた谷を下り、柿田川付近にまで達しました。富士山周辺に降り注いだ雨や雪解け水はこの熔岩の亀裂や隙間を通って長い時間をかけて濾過され地下水となります。その地下水が三島・長泉・清水町に広がる湧水群を形成し、国道1号線の直下から湧き出る最も規模の大きい湧水からなる川が柿田川です。川を形成するそのシステム(地質鉱物)が学術上貴重であることから国の天然記念物に指定されています。川そのものが天然記念物とされているのは沖縄県の塩川と柿田川との2本のみで、全国的にも貴重な存在です。

柿田川の歴史と人々の暮らし

 かつて柿田川は「泉川」と呼ばれ、地域は「泉郷」として知られていました。縄文・弥生時代の土器片が出土しており人々が住み暮らしていたことが確認されています。戦国時代には北条氏が泉頭城を築き、柿田川は堀として活用されました。また、江戸時代初期には徳川家康の隠居所を造る計画もあったといわれていますが、家康の死亡により中止されました。

 1910年代からは、水をくみ上げる技術が発達し、農業用水や工業用水として利用が進み、戦後には飲料水としても利用されるようになり地域の発展に貢献してきました。しかし、1960年代頃からは湧水量の減少や開発計画等により水辺環境は変化し、清らかな水が失われかけたのです。そこで地域住民や環境団体が立ち上がり環境を守る運動が進められ、名水百選に選定されるなど復活を遂げ、万民の憩いの地として「柿田川公園」が建設されました。柿田川公園では、湧水が勢いよく湧く箇所、じわじわと湧く小さな箇所など「湧き間」がいくつもあり、第1・第2展望台などから見ることができます。光の加減によって青く輝く湧き間、ケヤキなど木々に囲まれ川面を眺めながら遊歩道を散策するなど、四季折々の風景を楽しめる憩いの場所として地域住民のみならず、多くの観光客も訪れています。

柿田川の自然と生き物

 柿田川は湧水から成る川のため、流量は年間を通してほとんど変化せず、水温も15℃前後と安定しています。そのため夏は冷たく冬は暖かいという特性があり、多くの生物を育む豊かな水環境を形成しています。周囲との高低差が10m以上ある谷の斜面には河畔林が広がりカワセミやホタルをはじめ多くの鳥類や昆虫類が生息しています。水中をのぞくと、アユなどの魚類や水生昆虫、水生植物が生息し、柿田川固有種ミシマバイカモなど、湧水環境に依存する貴重な生物も見られます。

 しかし、近年では、河道内の土砂の堆積、本来は生育しない侵略的外来種の侵入・定着がみられ、貴重な在来生物の生育・生息に影響を及ぼしてきています。このため有識者・自然保護団体・行政が協力して「自然再生計画」を策定し、取り組みを進めています。

未来に向けて

 日本一短くも、日本一の湧水量を誇るこの「柿田川」は、日本三大清流、国の天然記念物、そして伊豆半島ジオパークと、日本だけでなく世界からも注目をされています。この清流は私たちにとってかけがえのない宝物であり、貴重な自然を守り続けるためには、私たち一人ひとりの意識が大切です。観光を楽しむだけでなく、環境保全の取り組みに関心を持ち、そのバランスをとってゆくことが求められています。

 「柿田川」この美しい水の流れは、今日も静かに、そして力強く続いています。


 出典・写真提供:沼津河川国道事務所静岡県清水町