2025年に大井川鐵道は会社創立100周年を迎えた。1925年3月に、大井川上流部の木材搬出と水力発電所建設をはじめとした貨物輸送を目的に創立。31年には大井川本線(金谷―千頭)、59年には井川線(千頭―井川)を開業し、それまでイカダと船、峠越えの馬、徒歩以外に移動手段がなかった、大井川上流地域の生活を一変させた。60年代から貨物・旅客輸送が減少傾向に見られたため、“観光・保存鉄道”として、地域の足を担っていくためにSL列車や、きかんしゃトーマス号の運行など、次世代に“大井川鐵道”をつなげるための活路を見いだしてきた。
 しかし、2019年にパンデミック(世界的大流行)を起こした、新型コロナウイルス流行による観光客の大幅減少や、22年に日本列島を襲った台風15号被害による大井川本線一部区間の運休など、同社はこれまでにない窮地に立たされている。
 そのような状況を打破するために、“ローカル鉄道の再生請負人”として鉄道業界では名高い、鳥塚亮氏を社長として招いた。「元祖観光鉄道として経営をV字回復させていきたい」と意気込む鳥塚社長に話を聞いた。

【聞き手】
 植田進委員

植田委員  社長の経歴を教えてください。

鳥塚社長  東京都板橋区出身です。鉄道が好きで国鉄に入社したかったのですが、当時は国鉄分割民営化の影響で新規採用がなく、大学卒業後に千葉県の学習塾に入職しました。学習塾の職員として3年目を迎えた時に、ソウルオリンピック開催に向けて、積極的な採用活動を行っていた韓国の航空会社“大韓航空”に転職。その後、イギリスの航空会社“ブリティッシュ・エアウェイズ”に移籍し、管理職として勤務しました。
 私が49歳の時、千葉県の“いすみ鉄道”の社長公募に立候補し、社長になりました。2019年に経営立て直しのため新潟県の“えちごトキめき鉄道”の社長に就任。そして、2024年6月に大井川鐵道の社長に着任しました。

植田委員  静岡の印象はどうでしょうか?

鳥塚社長  静岡県は気候が温暖で農林水産資源がとても豊か。新幹線や高速道路、空港と移動手段がとても多く、非の打ち所がないほど立地条件に恵まれた県だと思っています。観光集客には最適な地域なのに、恵まれた土地のため、“観光”に対して熱意が薄いと感じました。地方の基幹産業が衰退していく今、生き残っていくためには、各地域の資源を最大限生かす“観光”はなくならないもの。静岡県は、旅行客がまだ知らない穴場スポットが数多く眠るまさに“ダイヤの原石”であり、ガイドブックに載っていないような観光地を探している人にとって魅力あふれる地域だと思っています。

植田委員  運休中の大井川本線(川根温泉笹間渡~千頭)について教えてください。

鳥塚社長  現在、大井川本線・川根温泉笹間渡~千頭は、令和4年に発生した台風15号の影響で、被災し運休している状況です。災害復旧費やトンネル等の老朽化したインフラ施設の機能復旧など、合計約22億円の費用がかかると試算しています。国や県、地域自治体の公的支援はもちろん、地元建設業者の協力も必要不可欠です。建設従事者の皆さまには、工事やアドバイスなど全線開通に向けてお力添えをいただきたい。

植田委員  会社の経営状況はどうですか?

鳥塚社長  大井川本線の一部区間の運休やコロナウイルス蔓延などの影響により、わが社の経営は苦しい状況です。そのため、静岡の「おいしい」を詰め込んだ「お料理弁当」を食べながら、昭和レトロな客車に揺られて大井川流域の絶景を楽しんでもらう日本唯一のSLけん引食堂車「Train Dining オハシ」の運行を開始しました。
 また、静岡の魅力を発信できないかと思い、静岡の交通機関である、FDA(フジドリームエアラインズ)と富士山静岡空港とわが社がタッグを組み、上空から富士山を見降ろす富士山遊覧飛行と、日本で唯一のアプト式鉄道 とSL蒸気機関車に乗車してもらうパッケージツアーを開催しています。ぜひ、ツアーに参加していただき、静岡の魅力を堪能、再認識してほしいです。

植田委員  最後に一言ください。

鳥塚社長  地元密着型、市民参加型の鉄道会社を目指していきたいと考えています。今年、わが社は創立100周年を迎えました。また来年はSL蒸気機関車の走行開始から50年となります。これまで沿線に住む地域の人々は、川根の山あいに汽笛が響く光景は、当たり前のものだったと考えています。それが2年半前の災害の影響により運休し、日常にあったふるさとの光景は影に潜めている状況です。そのため市民の皆さんからは早期復旧の声が年々高まっています。いち早い全面開通に向けて、これからも皆さんと一緒に歩んでいきたいと思っています。
 これからも大井川鐵道をよろしくお願いします!


事務所(新金谷駅)は登録有形文化財に登録されている

【大井川鐵道株式会社】
■住所:〒428-8503
 静岡県島田市金谷東2丁目1112番地-2
■電話:0547-45-4111
■FAX:0547-45-4115
■ホームページ https://daitetsu.jp/

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