中澤教授(左)と堀内代表

2025年6月に橋台背面盛土研究会が発足、活動をスタートさせた。橋台背面盛土が抱える社会課題の重要性を捉え、解決を目指して産・学・官のプロフェッショナルが知見を持ち寄る組織となる。今回は同研究会代表の堀内浩平氏と、大学から知見で支える静岡理工科大学土木工学科の中澤博志教授に話を聞いた。

【聞き手】
静岡県建設業協会 総務・広報委員会
副委員長 市川 聡康(市川土木 静岡建設業協会)
委  員 松下 進一(松下組 袋井建設業協会)

市川副委員長(中央)と松下委員

植田委員  発足した研究会の活動目的を教えてください。

鳥塚社長  災害対策について、国や県レベルでの予防・保全の準備は着実に進んでいますが、市町村レベルに焦点を当てていくとそれぞれ固有の課題があり、対応も異なります。これらの課題について、問題提起まではできても、対策が具体化していない、といった実情が現場にあることを実感してきました。
 その一つが「橋台背面盛土」に関する課題です。架橋されている橋の橋台背面が沈下し、それによって段差が生じ、道路機能を失う。緊急輸送路や生活道路、いろいろな道路で人や車両の行き来ができなくなる。橋台背面の盛土は液状化のリスクを孕んでいて、耐震性がなければ安定性を失い崩れる被害が生じる可能性があります。そして道路は線状構造物ですから、1カ所で機能を失えば全体の機能を損ねてしまいかねません。東西を結ぶ大動脈が何本も通る静岡県で、道路が寸断されればその影響は日本全体に波及します。身の回りだけに止まらないこの課題について、同じ問題意識を持った人たちが集まり、予防や被害軽減などの対策に取り組んでいくことがとても重要なのです。
 目的意識を持った人たちと課題を共有し、協力して予防対策を推進していく、そのためには組織の力が必要となる。そのような考えに共感してくださった方々が集まり、今回の研究会組織化につながりました。

植田委員  組織構成について教えてください。

鳥塚社長  静岡県内の地域に根差した民間事業者で組織される研究会を中心とし、技術協力する静岡理工科大学と、情報提供やフィールドの提供を行う行政機関として静岡県袋井土木事務所と磐田市が協力します。産・学・官が連携し合ってイノベーションを生むことで、先述した社会課題の解決に向かい、社会の持続可能性を高めることを考えています。

植田委員  橋台背面盛土をめぐる現状の課題についてはどうお考えですか。

鳥塚社長  現状で最も大切だと考えているのは、液状化のメカニズムがあまり知られておらず、この点で注意喚起の必要性が高いということです。
 例えば地震と津波が発生したと仮定して、人々が先に影響を受けるのは液状化の方です。足元で液状化が発生すれば、避難行動の困難さに直結する。道路が平常時と同様に利用できるという前提が崩れてしまうのが、液状化が引き起こす大きな問題であることを、多くの人にしっかり認識してもらう必要があります。
 防潮堤の整備が進んでいますが、これにより津波が到達しなくなるのではなく、災害発生後に人々が避難するためのリードタイムを確保することがその意義であることを、正しく知ってもらう必要があります。そのため、道路機能維持が求められるのです。
 研究会においては、技術や知識を持った人たちが集まり、集積した知見を発信し共有する。そのような役割を担っていきたいと考えています。

植田委員  当面の活動計画や目標はありますか。

鳥塚社長  2025年度は情報収集と現地調査、26年度に被害予測や予防策の設計、27年度から実証実験、という段階を想定しています。短期的な目標として、1~2カ所の事例を定め、早期復旧対策や、事後の活動を円滑にするスキームを明確化すること。長期的には、これらの対策やスキームを全国に広げて、研究会の成果を波及させていくことを、組織の狙いとしています。
 最優先で取り組んでいく課題は、発災後の交通をどう確保するか。事前になるべく被害が少なくなる工法を考えることと、発災後の復旧をスムーズにする対処方法と、これらを両輪で考えていきたい。どの程度のコストで、段差を何センチに抑えれば通行が可能となるのか。実効性の高い対策やスキームを、研究会参加者の協力の下で固めていきたいと思っています。

キックオフミーティング

静岡理工科大学 https://www.sist.ac.jp/
静岡県袋井土木事務所 http://doboku.pref.shizuoka.jp/desaki/fukuroi/
磐田市 https://www.city.iwata.shizuoka.jp/

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