「存在感のある建設業を目指して」静岡県建設業協会会長に就任した木内藤男(きうち・ふじお)氏

5月23日の理事会で、静岡県建設業協会の新会長に木内藤男副会長が選任されました。伊藤前会長は「県内一の建設業の社長の木内さんが就任してくれて、大変うれしい。」と満面の笑み。それだけ信頼を寄せているということでしょう。しかし、建設業を取り巻く環境は改善傾向にあるように見えますが、技能労働者の高齢化や新規入職者の減少、原材料の高騰など直面する課題だけでなく、建設業の将来へ向けて解決すべき課題も残されています。そうした課題に対し、どのように取り組むのか、木内新会長にインタビューしました 。

次の世代を見据えて

――まず、あらためて就任の抱負をお話しください。

「伊藤前会長は、この10年活躍し、いろいろな問題を解決してくれました。それを高く評価し感謝するとともに、私たちが引き続き、建設業界や協会の発展に努力していきたいと思います。ぜひ、ご指導・ご協力をお願いしたいと思います」

――直面する課題にどのようなものがあるでしょうか。また、それにどのように対応するのでしょうか。

「環境がだいぶ良くなったとはいえ、技能労働者不足や原材料価格の上昇といった課題があります。また、われわれ建設業が内在的に抱えている問題もあります。それら全てを協会で解決できるわけではありませんが、個々の企業の自助努力も必要であり、協会の取り組みと、うまくかね合わせながら前向きな姿勢で臨みたいと考えています」

「伊藤前会長とは同世代で、若い時から共に企業経営に携わってきました。伊藤さんが会長をお受けになった時には、一役員として伝統のある建設業協会を発展させるために、少しでも役に立てればと思っていました。今回、会長職を受けましたが、建設業界で素晴らしい能力を発揮できる若い世代も育ってきており、良い形で引き継ぐ環境をつくることが、私の役割の一つであると思っています」

信頼に基づく関係構築を

――内在する問題について、もう少しお話しください。

「デフレ経済が長く続いたことにより疲弊した業界として、建設価格や低い労働単価などの問題点が残っています。デフレ脱却の政府の方針により、アベノミクスの成長戦略の一環として、国土強靭(きょうじん)化に向けた公共工事やインフラの改修や整備も計画されています。日本経済の成長に建設産業が寄与することにより、雇用の創出や新規入職者の増加を実現することも可能になると思っています」

「建設工事価格の問題は、税収の減少や社会保障費の増大により、財政の悪化が進み公共工事が削減され、デフレ経済の進行により民間の設備投資も減って、その状況の中で価格の崩壊やダンピング受注につながりました。国土交通省もこれらを改善していく方向を明確にしていただき、公共工事設計労務単価の引き上げや公共工事品質確保促進法、建設業法、入札契約適正化法の3法が改正されました。これらの改正により、受注者が適正な利潤を得られる公共工事市場が形成され、それにより業界の持続的な発展と、インフラの大更新時代を迎える中での担い手を確保できる環境が整うと期待しています」

「民間工事も、建設受注価格の上昇に理解をしていただく努力もしています。また、東日本大震災の影響もあり、全ての工種で上がり気味の状況が続く中で、建設業者として正確な工程管理や必要な職人の人数を要請する準備など、ゼネコン側の責任も重くなっています。そして、民間の発注者様も特命での契約を優先することにより、仕事量の平準化や発注価格の安定化を目的に、関係する当事者間の工夫も進んでいます。今後も、発注者・建設業者・専門工事業者間の信頼・信用を高めた上での良い関係の構築が確立してくると思います」

女性に開かれた職場へ

――若者の建設業離れについて、どのようにお考えですか。

「建設業の技能労働者の新規入職者の減少は、高齢化の問題と重なり深刻な状況です。建設現場の自然環境や賃金を含めた労働環境は厳しく、幅広い視点からの改善が求められています。特に型枠工や鉄筋工・内装工事など、熟練工として一人前になるには、相当の時間と教育が必要とされ、そのための教育機関や待遇面での改善を進め、“志”のある若者が建設業界で活躍できる環境を作り上げたいと思います。先日も弊社協力会の総会がありましたが、若い後継者に世代交代している専門工事会社もあり、将来への大きな期待を感じました。また、女性の入職も増加していますが、働く時間や適性・職種などもより開かれた良い職場にする努力も必要です」

「定着率を高める取り組みも必要です。その為には仕事に興味が湧き、責任を持って業務に携わるまでのフォローもしなくてはなりません。早く資格や高い技術を取得し、プロとしての自覚を持ち、社会的にも認知され、仕事に対する誇りや使命感を醸成することも大きな要素です」

一歩先への努力と地産地消の精神

――そろそろ、業界はもう少し声を上げてもいいのではないでしょうか。PRもますます求められると思いますが。

「建設業界は災害への迅速な対応や、老朽化したインフラの整備に対し、安全・安心の確保の為の使命や、高い品質を確保できる業者への大きな期待が寄せられています。これらの期待に応えるためにも、技術力や財務面での企業体質をさらに強固にし、建設業全体が適正な利益を確保しながら生産性を高める努力をし、自立自助の精神で誇りと自信の持てる業界にしていかなくてはなりません。そして、日本経済がデフレからの脱却を目指し、成長しようとしている時は、“一歩先へ動く努力”や“積極的な挑戦をしていく事業展開”も必要です」

「静岡県は災害時BCP(事業継続計画)の策定を促し、総合評価の加点項目にも追加しました。また、地域における建設業者の役割をより深める必要があります。日常、その地域で生活し、インフラの整備や建設工事にも携わり、防災活動にも協力させていただいています。地域に根差した建設業であれば地元の事は熟知しており、地産地消の精神で強い絆を結ぶことにより、その存在感はさらに高まります」

「長い間、公共工事不要論や悪玉論が巷では叫ばれましたが、メリハリをつけた計画をもとに安全・安心のまちづくりや、社会基盤の整備という国家百年の大計を着実にすべく、存在感のある建設業を目指したいと思います」

インタビューメモ

木内建設の4代目社長として、忙しい日々を送る。きびきびとした動きで、いつも精悍(せいかん)な印象を与える。社長就任以来、休日にはトレーニングジムへ時々足を運んでいるそうですが、歳とともに「体力は落ちるし、ゴルフの球は飛ばなくなるし」と笑うが、やっぱり「精悍」というのがふさわしい。

趣味はゴルフ、読書の他に、「実は長い間やっている陶芸」も。家族で普段使っている茶碗や皿は皆自作だ。仲間と年に1回窯場巡りも楽しいとのこと。「国内は結構回っているが、中国や韓国など海外の伝統ある地域への見学も期待している」。陶芸のおかげで、今まで「10分もあれば終わっていた美術館の鑑賞」も、陶器などがあれば素人なりに「これはいい」などと興味深く拝見するそうだ。

略歴

1947年12月生まれの66歳。70年立教大学経済学部経営学科卒後、木内建設入社。88年専務取締役、90年社長就任。団体歴は96年静岡建設業協会理事、2007年同会長。静岡県建設業協会では2000年に理事、07年に副会長。経済界では、1998年に静岡商工会議所常議員、2003年副会頭、現在は常議員。09年国土交通大臣表表彰、11年黄綬褒章。

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