小野− |
そうか、都市マーケティング学、このほうがぴったりで、わかりやすい。それで、村山さんのツーリズム、都市観光論や都市マーケティングとして伊豆を見た場合どうでしょうか。私たちはいままで伊豆をいわゆる「観光地」としてしか見ていなかったんですが。 |
村山− |
ツーリズムには、いろいろなモチベーションがありますが、たとえば「伊豆に行ったよ」と言って、どれくらいの人が自慢するでしょうか。いまだったら、たとえば大阪のユニバーサルスタジオに行ったと言ったら「ワー、すごいね」って言われるでしょう。でも、伊豆に行ったと言って「ソー、ワー、すごい」って言われるでしょうか。旅行に行くとき、ちょっと自慢ができる所、そういう所に行きたいという気持ち、わたしたちにあると思うんです。いまはイメージが大切なんですよね。伊豆ってどんな特色を持っているのかしら、伊豆はどんなイメージがもたれているのでしょうか……。もしそれが希薄だったり、いいイメージを持たれないようでしたら、イメージをつくり直さなければならないんです。伊豆とバーミンガムは、まったく異なる性質を持つ地域で比較できませんが、バーミンガムが長らく落ち込んだままだったのは、工業都市としての成功体験が長かったからです。現実を把握できなかったのです。だから変わることがなかなかできなかったのです。伊豆は観光客から、外からどう見られているのか、伊豆の人たちが実感する必要があると思うんです、まず。その他にもいろいろしなければならないこともあるでしょうが……。 |
小野− |
まず、ね。 |
村山− |
バーミンガムの人たちは、それが最初のステップだったんです。伊豆の人たちは、もしかしたらまだ深刻に危機意識を持っている人が少ないかもしれません。まだまだやっていけると思っているのかもしれません。 |
小野− |
村山さんに言わせると、伊豆は「ときめき」「ときめかせるものやこと」がない。 |
村山− |
伊豆をほかの温泉地から際立たせるものって、どういうモノやコトなんでしようかね。 |
小野− |
バーミンガムの成功体験と同じ、気候がいい、食べ物がうまい、温泉がある、昔だったらそれだけでもよかったんですがね。 |
村山− |
でも、いまはそれだけでは…。都市マーケティング論からすると、伊豆のイメージを自分たちで練り直し、自分たちで発信していく、そういう時代だと思います。 |
小野− |
その新しいイメージを作り出していく素材を探さなくては。 |
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村山− |
ええ、それは絶対にあるはずです。考えるんです。探すんです。 |
小野− |
伊豆といわず、静岡県は、自然は豊かですし、まあまあ食べ物もうまい、歴史もある。素材はある。でも、なにかきらびやかさかない、ときめきがない。 |
村山− |
わたし、伊豆への基点の三島にきてびっくりしたのは、楽寿園のなかにある小浜池に行ったときです。写真では清水が満々なのに……、でも、実際は小さな水たまりがあるかないか、という感じでした。三島は、街中いたるところに湧水が豊かに流れていたという歴史的風景というんでしょうか、そういうものがあったんです。いま、失ってしまった三島の原風景を市民が一生懸命リバイバルしようとしています。先ほどの“イメージ”ということでは、三島はやはり「水」でしょうか。それをもっともっと大きくプロモーションすべきじゃないかなって。菰池公園や桜川で、つまり街中でカワセミを見ることだってありますし、源兵衛川にはトンボがたくさん飛んでいたり、ホタルもいます。ほんとうに心が豊かになります。三島にしかないすばらしさがいっぱいあるんです。そういったところからイメージを固めていけばいいと思うんです。三島が中小の都市だからといってリトル・トーキョーになる必要はありません。やはり、地域に根差した、風土に根差したものを核とすべきです。 |
小野− |
単に観光のためだけじゃなくて、わたしたち三島市民も街の共有財産としてそれを大事にしなければいけませんね。 |
村山− |
そうなんです。住民にとっても魅力的なものだったら、自分も行くし、友人や親戚が遊びに来たときもきっとそこに連れて行くと思うんです。単に観光客のためのものだったら、地元の人は何度も行かないはずです。みんなが共有できる財産じゃない。わたしは、観光資源を開発する際、地元の人も楽しめる、そこで仕事をしている人も楽しめる場でなくてはならないと思うんです。外から来た人たちだけが楽しめて地元の人が楽しめなかったら、それは本当の「観光資源」じゃないって思うんです。 |