栗山社長
 

 2022年度に静岡県内大学で唯一の土木工学科がスタート、10月末には土木工学科棟『あーすつりー』が完成した。南海トラフ地震への備えや頻発する豪雨災害など防災・減災対策を果たす重要な役割を担う。地域の企業・行政と連携した土木工学科の取り組みや教育方針、人づくりなどについて聞いた。

【略歴】
1998年 熊本大学大学院自然科学研究科博士(後期)過程単位取得退学
1998年 群馬大学工学部助手(建設工学科)
2005年 群馬大学大学院助教(社会環境デザイン工学専攻)
2021年 静岡理工科大学土木工学科設置準備室教授

【聞き手】
静岡県建設業協会 総務・広報委員会
委員長 佐野 茂樹(青木建設 三島建設業協会)
副委員長 三尾 祐一(三与建設 富士建設業協会)
委  員 松下 進一(松下組  袋井建設業協会)

【学科メモ】
学科名・・・理工学部 土木工学科
入学定員・・・50名
収容定員・・・200名(各学年50名×4学年)
専任教員・・・8名
設置時期・・・2022年4月
施設・設備・・・『あーすつりー』(愛称)、作業室、プレゼンスペース、アクティブラーニングスペース、大教室、普通教室、ラウンジ、ゼミ室、教員室、会議室など

◆はじめに学科長就任に当たっての抱負をお願いします

大学  日々、様々なところから熱い期待を感じています。当初からの目的である、地域の行政や企業などに優秀な人材を輩出していくという、責任の重大さを身をもって感じています。地域企業の技術者と大学が情報を共有することで、優秀な人材が輩出できると思います。

◆土木工学科の概要などについて教えて下さい

大学  スタッフの手厚いサポートもあり、4月に入学した第1期生31人は、誰一人欠けることなく、学業に邁進しています。学生同士もとても仲が良いです。
 学科の特徴として「静岡県のリアルな防災・減災対策」や「フィールドワークを通して学ぶプロジェクト科目の開講」に力を入れています。フィールドワークについては、第1期生がすでに6~7回実施しています。実際の現場に足を運び、学ぶ機会を増やしており、これだけ現場を訪れる大学は全国的にみても非常に珍しいです。土木工学を学ぶうえでの恵まれた地形が多くある静岡県というフィールドや本学科を応援していただいている地域の企業の皆さまには、日々、感謝をしています。現場訪問は1~3学年で継続的に行う計画です。学年を重ねることで水理学や土質力学などの専門知識が身に付きます。現場の技術者が「どのような課題に直面し、それをどうクリアしているのか」を学んでもらうのが、次のステージだと捉えています。3年次では、研究室に所属した段階で改めて現場をみてもらいます。これまでの自分自身の成長を、学生に肌で感じてもらいたいからです。このような取り組みには、地元企業の協力がなければ実現できません。今後も教育の発展のためにも支援をお願いしたいです。
 学生間でも「土木」というフレーズはイメージしづらいですが「防災」という言葉は、日常生活でも馴染みがあります。「防災」を1つのきっかけやキーワードとして捉えることで、学生に興味を持ってもらい、土木工学の学びへつなげたいです。
 ICTに関する期待感やニーズはかなり感じています。もちろん学生に対しては、就職後、ICTを使いこなせる人材になってほしいです。しかしながら、ICT技術自体を教育するのではなく、ICT技術というツールをもちいて,技術者が現在どのように対応し、どのように現場における諸課題を解決しているのかという点に焦点をあてて教育に取り入れていきたいと考えています。

◆建物と設備の特色を教えてください

大学  鉄筋コンクリート造4階建て延べ3400平方メートル。1、2階が共有フロアになっています。1階はプレゼンルームなどがあり、研究発表会など人が集まれる工夫がされています。2階は講義室が3部屋ありガラス張りになっており開放感があります。3、4階が教員の研究室のスペースになっており、他大学にはない特徴的な配置になっています。「教員と学生の境がない」というのをコンセプトにしています。広いフロアに教員の部屋が点在しているようなイメージで、自然と学生とのコミュニケーションが取れる効果が期待されます。

◆協会側から何か意見はありますか

協会  松本学科長から「周りからの熱意をとても感じる」とありましたが、当協会も「希望」だと認識しています。現在の学生が4年後、卒業して県下で活躍することを期待しています。是非とも先生方から、地方の中小企業の魅力を発信してほしいです。

大学  ありがとうございます。土木工学科の学生は9割以上が県内から来ており、地元志向が高いです。一定程度、地元の建設企業を選択する可能性があると考えています。我々も学生の意向に沿った形で後押しをしたいです。また、皆様が行う地域の企業や建設業の魅力発信のサポートは青天井でやっていくので連携をお願いします。

協会  「防災」を全面に打ち出している大学は珍しいと思います。やはり静岡県は東西に長く、台風や地震など多くの自然災害の危険があります。我々も日頃から意見交換会などで「事前防災」の重要性を挙げています。学生には、川の氾濫や道路の冠水について「どうすれば事前に防げるか」を目で見て研究してもらいたいです。

大学  発生した確定事項の災害を研究するだけでなく、それを今後の防災にどう生かし、つなげることが我々の使命だと考えています。

協会  9割が県内の学生とありましたが、東・中・西で分けた時の分布を教えて下さい。

大学  現在、男子が29人、女子が2人です。内訳は2割、2割、6割程度となっています。

協会  地元への就職を増やすためには、インターンシップの重要性がここ数年高まっています。協会としても受け入れ体制があるため、積極的に要望してもらいです。1、2年次のフィールドワークで学生の各出身地域の現場を訪れることで地元への就職率も上がると考えます。

大学  インターンシップに積極的に取り組む学生に対しては、単位認定するなどのカリキュラムを組んでいます。

協会  「土木工学科」という学科名にした理由を教えて下さい。

大学  他大学でも一昔前は「土木」をというフレーズを使わない学科名が増えたが、最近になって少しずつ増えているという背景があります。また、高校生にアンケートを実施したところ、男子高校生からは分かりやすくということもあり「土木」が1位という結果が出ました。加えて学科名に「土木」を入れることで、就職時に「これまでしっかり学んできた」というアピールにもつながります。

協会  男子高校生が「土木」を選んでくれたのは業界にとっても嬉しいことです。


協会  ICT施工の時代が進んでおり、実績の現場でもドローンや建設機械など最新の設備を備えています。このため、大学側が要望するシミュレーションを全て用意できると思います。中東遠が発展するよう、地元の袋井建設業協会も最大限バックアップしていきます。

大学  学生に対し、ドローンやICT技術だけを単独で教えるのではなく、「人手不足」、「危険」といった建設業が抱える課題や社会的背景も絡めて教育していきたいです。加えて、ICT技術だけに頼ると現場に足を運ばないため、実際の状況を理解しにくくなるということもセットで教えていきます。

協会  便利な時代となり、これからの入職者が丁張すら掛けれないという危機感を抱いていたが、大学側の「ICTなどの先端技術は手段の1つであり、重要なのは現場で発生する実現象をしっかりと理解し、土木工学的センスで課題解決できる技術者である」という意見を聞いて安心しました。
 今回の台風15号による甚大被害が県内各地であり、我々も被災した翌日から復旧作業にあたりました。被害箇所を見ると県や市が管理する公共土木施設が大半でした。大学には、発注者にも優秀な人材を送り込んでいただき、受注者との連携が上手く取れる関係づくりをお願いしたいです。

大学  発注者、コンサルタント、受注者の事業に関わる全てのレベルアップが必要だと感じます。

協会  現在の土木工学科の1期生が卒業し、今後の静岡県の防災を担うことを期待しています。本日は、お忙しい中での対談ありがとうございました。

静岡理工科大学
土木工学科

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