現在、富士宮市に建設中の「富士山世界遺産センター」を訪ね、静岡県文化・観光部文化局・世界遺産センター整備課 主査 石川文司氏に建物の特徴や見所、施工に関する苦労話、工夫した点などを聞いてきました。
取材日 平成29年6月6日

工事名:
 平成27年度[第27-U3004-1号]
 富士山世界遺産センター(仮称)建築工事

建築主体工事施工者:
 佐藤工業・若杉組特定建設工事共同企業体

設計者:(株)坂茂建築設計

敷地面積:7,000平方メートル
延床面積:約3,411平方メートル
総事業費:約41億円
完成予定日 2017年7月末
開館予定日 2017年12月23日
 

 今日はちょうど足場の解体が始まってますので、何となく外観が見え始めていますが、建設場所は富士宮駅から徒歩10分、浅間大社の南側、神田川の西側、JR身延線の北側になります。元々は富士宮市が整備した、観光駐車場「せせらぎ広場」であった場所となります。

 施設の概要ですが、基本的には富士山世界遺産に関する包括的な保存管理の拠点とすると共に、富士山の自然、歴史、文化に加え、周辺観光などの情報提供をしていく施設になります。

 工期は平成28年3月からスタートし、建築工事は平成29年7月に完成予定、外構工事と展示物を合わせると10月完成予定、開館日が12月23日となっています。施設が完成してから展示の試運転とか、スタッフ・委託員・ボランティアの教育を含めて2カ月を準備期間としています。構造は鉄骨造5階建て、最高高さは18.5m、延床面積が3411平方メートルです。

 建物の概要ですが、北棟と西棟、展示棟の3つに分かれています。北棟と西棟は2階建て、展示棟が5階建てになります。3棟の構造的な関連性ですが、基礎は一体となりますが、1階から上の鉄骨はエキスパンションで切っています。これら3つの棟が、ガラスのカーテンウオールでつながっています。

 建築基準法では1棟となります。構造計算では限界耐力を使わずにルート3の保有耐力で解いています。展示棟はスロープ状に上がっていく構造なので、階の考え方がなかなか難しかったのですが、日本建築センターと調整しながら確認をとりました。

 展示棟は逆円錐で下からスロープで登って行き、頂上にはピクチャーウインドウと呼ばれる開口を設けて、富士山の借景が楽しめるものになっています。5階は一部バルコニー構造となっています。建物の配置ですが、水深3センチの水盤の西側に建物を配置してあり、水面に映った展示棟の姿を外部から楽しめるようにしてあります。

 延べ床面積は3411平方メートルなのですが、2つの屋外の機械室は、西棟に限っては2階建てですが、屋根が無いため延べ床面積には入っていません。実際の施工面積で言えば3700平方メートルぐらいになります。遮音及び意匠の関係で機械室には防音壁を設置しています。
渋沢栄一書「豊門会館」(豊門会館玄関)

 エントランスに行くためには鳥居をくぐって、左回りに水盤を回っていくことになります。鳥居をくぐらなくても神田川の側道からエントランスに行けるような動線もあります。1階ですが、メインエントランスを入ると、ガイダンス展示となっており、世界遺産富士山の構成資産と、周辺施設などを紹介します。奥に行くとミュージアムショップ・カフェがあります。

 北棟にはライブラリーがあります。西棟の研修室では修学旅行生などの受け入れを行います。西棟の収蔵庫ですが、富士山絵画等の文化財を展示する為に一定の温度と湿度を保てるような設備と成っており、風除室のような空間に所蔵品を積んだ車両ごと入れるような構造として、外部と遮断した状態で荷下ろしをし、EVホールで荷分けして、収蔵庫にも、直接エレベーターを使って2階の企画展示室に入れて展示することも出来るように成っています。重文クラスの文化財でも収蔵出来よう考えられています。

渋沢栄一書「豊門会館」(豊門会館玄関)

 2階では展示棟と北棟、西棟がブリッジでつながっています。北棟には映像シアターで265インチ・4Kシアターになっています。西棟は企画展示室と事務エリアがあります。

渋沢栄一書「豊門会館」(豊門会館玄関)

 3階に上がるともう1回ブリッジがあって、西棟と北棟は2階建てなので、3階までくると屋上なのですが、建物の一部がガラスのカーテンウォールに突っ込む形で囲われているので、屋上なんだけども室内になっていて、そこを常設展示室としています。育む山とか、受け継ぐ山といった展示内容の予定です。

 北棟は屋外展示で外に出られるようになっており、富士塚を展示予定です。逆円錐形の展示棟は、真ん中にエレベーターと非常階段がコアとして通っており、スロープは中心から外側に広がりながらスパイラル状に上がっています。その中間階に常設展示室を設けています。

渋沢栄一書「豊門会館」(豊門会館玄関)

 4階から5階は割り付けの関係で、スロープの勾配がちょっときつくなっていますが、これを上がりきった5階が頂上となります。屋外テラスのまわりには富士山の大沢崩れ下流に有る、大沢扇状地産の石を敷き詰める予定です。

渋沢栄一書「豊門会館」(豊門会館玄関)



 見どころとしては、展示棟は1階からスロープで上がっていきますが、1階から5階までを富士山の登山道に見立てて、スロープ内の壁にプロジェクターで映像を当てて再現し、疑似的な富士登山を体験できるように考えられています。

 この施設の動線としては、まずは1階から5階までスロープで上がっていただく。5階まで登って擬似登山体験をし、頂上で本物の富士山を見てもらい、そして下りながら展示を見ていただく形です。

 5階・常設展示室(1荒ぶる山)、4階・常設展示室(2聖なる山)、3階・常設展示室(3美しき山)、2階・企画展示室となります。

 現在、工事の進捗率は80%を超えています。展示棟の逆円錐の半分は外部、内側から見ると逆円錐のもう半分はが内と成っており、建築的には納まりの調整が大変でした。

 設計者の坂さんは紙管を使うことで有名なのですが、今回はシアター天井に使っています。紙管なのに不燃認定を取って波を打たせるように仕上げ材として使っています。


 構造ですが、基礎は杭基礎でGL-11mの層を狙っています。杭長は9m、1階床と耐圧盤との間が2mぐらい有るのですが水槽にしています。水槽は井戸水、雨水を貯める為のものです。

 これより上は全て鉄骨造になっており、各棟はエクスパンションで切れています。

 西、北棟は一般的な鉄骨造です。展示棟の中心部はコアに成っていて、柱が斜めに倒れている形です。梁とブレースが色んな角度で接合しています。斜めの柱が開かないようにする構造的な受けは、逆円錐形の上面・楕円形の上部の閉じたリングとなります。

 柱・ブレースによる鉄骨トラス構造の逆円錐形を、外周間柱8本と5階床構造拘束梁とで接合しています。

 特徴的なのは斜柱の柱頭、柱脚及び、外周間柱の柱頭、柱脚がピン構造になっていて、全体的にトラス形状を構築しています。

 棒状の物をつなぎ合わせて一番強い形は三角形なので、必然的に鉛直力には強いのですが、逆に水平力には弱くなるので、南北方向と東西方向は間柱のトラス構造でカバーしている構造になります。

 建築基準法で定めた1.5倍の地震力に耐えられる構造です。

 施工の話ですが、今回一難しかったのは、どこを作るにも平面で収めきれないこと、すべてのものを3次元で解いていかなければならなかったこと、全てを3次元の座標値として捉えなければならなかったことです。

 非常に難易度が高かったかなと思います。監理の特徴ですが、当然発注する時に3D-CADデータを、まずは坂設計で検証しています。

 その後、鉄骨業者、木格子業者、元請JVがそれぞれ3D-CADで同じ寸法で書いているのですが、各社が使用しているCADソフトが違う為に、合わせてみると何故か多少のずれが生じました。

 そのため、3D-CADの専用の委託業者を常駐させて、そこに全社のデータを送って、一つのCADソフトで監理をする。曲面材がどれくらいになるか、外壁材や内壁材が曲がるのかどうか、スロープの勾配により内外の倒れは大丈夫か、手摺りやパネルの取り付け位置の検証をしたりしました。各社が施工図を書いて、委託業者が検証しました。

渋沢栄一書「豊門会館」(豊門会館玄関)
 逆円錐形の施工の手順としては、まず北棟、西棟を立ち上げます。そこから展示棟中心部のコアを立ち上げ、その後に、斜め柱を受ける、すり鉢状の仮設ステージを作り、鉄骨を受ける支保工・構台を設置してから、逆円錐部の施工に入りました。

 円錐上底部分を6ブロックに分けて順番に斜柱を取り付けていき、ブロック毎に鉄骨の本締めをしながら全体を組み上げたのですが、最終的に寸分違わずズレが生じることもなく完了しました。支保工が有ることが施工上、大変重要な役割を果たしたと言えます。すべてが設計座標通りに収まっていました。

外部パース

内部パース
 

 この建物で特に特徴的な木格子については、設計仕上がり寸法は120角のヒノキですが、ガラスの外と中では仕上がりが違ってきます。外部の木格子に関してはムク材です。超対候性撥水剤を2回塗りしています。逆円錐は平面的に見ると、上に上がるにつれ円から楕円形に広がっていくので、円錐と言ってはいますが厳密には円錐じゃないんですね。曲面がねじれて広がっていくので部材も曲がってねじれていきます。そのため、140角の角材から曲がってねじれている120角の角材に削り出しています。

 内部の木格子は内装材なので不燃が要求されるので、90角の角材の4面に不燃注入を施した厚み30の板材を貼り、150角の角材としたところから120角の角材に削り出しています。

 すべての部材を3次元でプレカットしました。木格子の部材は全部で約8000ピースあり、1ピースずつすべて形状が違いますので、1ピースずつパズルのように現場で組み合わせています。現物を施工する前に、現場でモックアップの作成を行い、組み方、留め方、塗装、施工性の検証をしています。3センチ×4センチのガイド材を用いて、位置決めをしてから下地鉄骨に固定しています。材料は全て静岡県産材の富士ひのきを使用しており、森林認証のプロジェクト認証を取得する予定です。
ピースの一例
実際の現場の木格子の様子
木格子は複雑な曲線を描いて広がっていく。

 設備関係で特徴的なのは、富士山の湧水を利用しています。地下水は年間通して摂氏15度前後ですから、冬は外気より温かく、夏は外気より冷たいので水冷チラーを用いて熱交換し、館内の空調に使用しています。

 当初は地下水をポンプアップする予定でしたが、掘ってみたら自噴で湧水が沸き、逆に基礎工事の時に湧水の扱いに苦労しました。湧水は熱交換して空調に利用し、二次利用として外部の水盤にまわしています。

 外部はライトアップをする予定で、モックアップで確認した結果、白色系の明りでライトアップする予定です。

 定時で色を変えたりすることも考えていますし、季節によって見せ方を変えても良いかもしれません。もちろんライトアップが近隣住民に対して光害と成らないように検討しています。

富士山世界遺産センター建設地・地図

施設が完成後、今一度レポートする予定です。