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ファルマバレーセンター 名誉センター長 植田勝智さん |
年齢を重ねても、自分の身の回りのことを、できるだけ自分で続けたい。その願いを住まいの側から支えようとするのが、ファルマバレーセンターの「自立のための3歩の住まい」だ。寝床の近くに水回りをまとめ、起き上がりや立ち上がりを支援する設備を取り入れる。さらに、介護が必要になった後の暮らしにも目を向ける。医療・福祉の現場の知見とものづくりを住宅につなげる取り組みについて、名誉センター長の植田勝智さんに聞いた。
| ファルマバレーセンター 名誉センター長 | 植田 勝智 |
| 事務局長 兼企画部長 | 土泉 一見 |
| 静岡県建設業協会 総務・広報委員会委員長 | 三尾 祐一 |
| 委員 | 稲村 明子 |
| 沼津建設業協会 広報みらい委員 | 渡邊 裕介 |
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「自立のための3歩の住まい」を始めたきっかけを教えてください。
ファルマバレーセンターの活動の基本は、医療の現場にある困りごとを、ものづくりで解決することです。これは以前から変わっていません。
そうした活動を続ける中で、医療向けに開発してきた製品や試作品には、介護・福祉の現場でも活用できるものがあると分かってきました。それならば、高齢者の暮らしを支える分野にも、もっと取り組めるのではないかと考えたのです。
一方、静岡がんセンターには、患者さんとご家族を支える看護の知見があります。当時の山口総長を中心に、その看護の知見と、私どものものづくりを組み合わせれば、人生100年時代に対応した事業ができるのではないかという話になりました。2018年頃のことです。
もう一つ、ファルマバレープロジェクトに参加する企業の裾野を広げたいという思いもありました。医療機器の開発には、費用や人材、時間が必要です。その中で住宅分野に目を向ければ、建築をはじめ、より幅広い企業の方々に関わっていただけるのではないかと考えました。
ただ、私ども自身が住宅の専門家だったわけではありません。最初は「本当にできるのだろうか」と迷いました。それでも、始めた以上は走りながら考えようと、高齢者が暮らしやすい部屋をみんなで考えたのです。
当初は、自分たちでフリーソフトを使って図面を描くようなところから始めました。その後、がんセンターの建設に関わった、病院計画や設計に詳しい専門家にも入っていただきました。医療や看護の現場で培われた考え方を、住まいにどう取り入れるか。そうして形にしてきたのが「自立のための3歩の住まい」モデルルームです。
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そもそも「3歩」とは、どのような意味なのでしょうか。
ベッドや布団から、トイレ、洗面、シャワーなど、日常生活に必要な場所へ少ない歩数で行ける。その近さを表したのが「3歩」です。
昔の住宅では、トイレやお風呂が家の北側や隅の方にあることが多かったですよね。夜中に目が覚めてトイレへ行くにも、寝室から離れたところまで歩かなければならない。高齢者にとって、その移動が負担になります。
そこで、寝床のすぐ近くに、生活に必要な設備があればよいのではないかと考えました。誰かにトイレまで連れていってもらい、下着を下ろしてもらい、座らせてもらう。そうではなく、自分のことを自分でできる環境を、できるだけ保ちたいのです。
参考にしたのは、静岡がんセンターの緩和ケア病棟の病室です。コンパクトな部屋の中に、ベッドと水回りが近接している。その考え方を、「自立のための3歩の住まい」にも取り入れました。
実は、先に住まいのプランがあって、名前は後から付いたものです。みんなで名称を考える中で、「3歩の住まい」はどうだろうという案が出ました。生活に必要な場所が近くにあるというコンセプトにも、言葉の響きにも合っていたのです。
ですから、すべてを厳密に3歩以内にするというより、できるだけ短い動線で、自分の生活を自分で営めるようにする。その考え方を伝える名前だと捉えていただければと思います。
この取り組みにおいて、「自立」とはどのような状態を指していますか。
日々の身の回りのことを、できるだけ自分でできる状態です。その期間を少しでも長くし、寝たきりの状態を少なくしたいと考えています。健康寿命の延伸です。
モデルルームでは、自立を支える設備として、起き上がりや立ち上がりを支援するベッドを取り入れています。起き上がる、立ち上がる、そして近くのトイレやシャワールームへ移動する。その一連の動作を、自分で行いやすくするためです。
このベッドを導入する際には、発売に向けて準備しているという情報を知り、メーカーに連絡しました。私どもが考えていた住まいの趣旨に合う設備だったので、ぜひ取り入れたいとお話ししたのを覚えています。
一方で、「あまり便利にすると、かえって動かなくなり、自立を妨げるのではないか」というご意見もあります。私どもが考えているのは、無理に歩いていただくことではなく、日々、自分の身の回りのことを自分で続けられるようにすることです。その状態を長く保つための環境を整えたいのです。
もちろん、将来、介護が必要になる場合もあります。そのときにも対応できるように、ベッドを壁に寄せず、部屋の中央に置いています。こうすることで両側から介助できるスペースを確保しています。介助する方が介護される方に近づきやすく、車いすへの移乗などもしやすい配置を考えています。
自立した生活を支えると同時に、その先の介護にも対応できる。部屋や設備の配置を、両方の視点から考えています。
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ロボットやAIには、どのような役割を期待していますか。テクノロジーは人の「自立」を助けることができるのでしょうか。
将来の暮らしを支える機器を、企業の皆さんと一緒に開発していきたいと考えています。モデルルームには、将来の住まいを考える研究の場としての役割も持たせています。
目指しているものの一つが、人の言葉を理解して動いてくれるコミュニケーションロボットです。例えば、「何々を持ってきて」とお願いすると、その言葉に応じて動いてくれる。そうした機器が、生活を支えるようになればと思っています。
実際に、モデルルームを見て介護・福祉機器の開発に取り組む企業もあります。将来、こういう場所で、こういう機器が使えたらよいのではないかと、具体的な暮らしの場を見ながら考えていただけることに意味があるのです。
ただ、人の会話を理解して、双方向のやり取りができるようになるまでには、まだ時間がかかると思います。近い将来に活用できる機器をどうつくるか、さらにその先の暮らしをどう支えるか。そうした視点で、開発に取り組んでいます。
「老後になってから住宅を考える」のでは遅いのではないでしょうか。また、住宅を作る側、建築・土木に携わる人には、どのような視点を持ってほしいですか。「段差をなくす」「手すりを付ける」という従来型のバリアフリーを超えて、これからの住まいづくりに求められるものは何でしょうか。
モデルルームを公開して、見学者の方々のお話を聞く中で、年を取ってから自分の住まいのために大きなお金を使うことには、ためらいがあるのだと分かりました。ご自身のために使うより、残しておきたいと考える方もいらっしゃいます。
しかし、今は若い方も、いずれは年齢を重ねます。家を建てる時点で、お子さんが独立した後に、自分たちはどの部屋で、どのように暮らすのか。そこまで考えておいていただきたいのです。
例えば、将来使う部屋の床下に、排水用の配管を準備しておくという考え方があります。今は使わなくても、後から近くにトイレや洗面などを設けることを想定しておく。そうすれば、将来の大きな改修を減らすことにつながります。
同じように、後から手すりを取り付けられるよう壁の中の間柱を太いものにするなどの準備したり、介護用のリフトが必要になる場合を想定して、天井側の構造を加重に耐えられる材にしておくことも、ご提案しています。
手すり一つにしても、ただ付いていればよいというわけではありません。物を握ることは難しくても、手をつくことはできる方がいらっしゃいます。そうした方には、平らな形状の手すりも考えられます。使う人が、どのような動作ができるのかという視点が必要です。
コンセントの位置もそうです。低いところにあると、差し込むために大きくかがまなければならない。コードに足を引っかけることもあります。高さや、引っかかったときに外れる仕組みなど、日常の小さな動作に目を向けると、工夫できることはいろいろあります。
建築に携わる方には、自分が年を取ったときにどう使うのか、介助する方はどう動くのかまで想像していただきたいと思います。将来の暮らしを考え、今の住まいづくりの中で準備できることをしておく。その考え方が大切だと思います。
「自立のための3歩の住まい」は、20年後の住まいを考える共同研究室でもあるとされています。20年後、私たちはどのような住まいで人生100年時代を生きていたいのでしょうか。
自分の身の回りのことをできるだけ自分で行い、介護が必要になったときには、介助する側にとっても使いやすい。そうした住まいを考えていきたいと思っています。そのために、これから必要になる機器を、企業の皆さんと一緒に開発していく場にしたいのです。
将来に向けた大きな課題の一つが、ベッドとトイレです。寝たきりになったとき、排泄の介助は、介助する方にも、される方にも負担になります。長年、自分のことを自分でしてきた方が、ご家族に排泄の世話をしてもらうことへの気持ちを思うと、それを何とかできないかと考えています。
今、モデルルームには、持ち運びのできる水洗トイレを展示しています。ベッドのそばで使えるのですが、給水や排水のためのホースがあります。そのホースが邪魔になるという課題もあります。
さらに先を考えると、必要なときにトイレがベッドのそばへ来てくれて、使い終わったら元の場所に戻り、処理までできる。そういう仕組みができたらよいと思うのです。
ただ、構想があっても、機能やコストの問題があります。使う方にとってよいものでも、手の届く価格でなければ広がりません。今ある設備を出発点にして、どのように改良し、暮らしの中で使えるものにしていくかを考える必要があります。
「20年後」と言っていますが、よいものが5年後、10年後にできれば、それに越したことはありません。将来の暮らしを具体的に想像しながら、実際に使える機器や住まいにつなげていきたいと思っています。
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今後の展望と、これから高齢期を迎え「老いること」や「介護されること」を不安に感じている人たちに、この取り組みからどのようなメッセージを届けたいでしょうか。
最終的な目標は、この考え方を実際の住宅に取り入れていただくことです。静岡県内だけでなく、世の中にこうした住まいが増えていくことを目指しています。
そのために、よりよい「自立のための3歩の住まい」や、いろいろな住まいのパターンを考えるコンソーシアムを立ち上げて活動しています。モデルルームを一つの提案として示し、それを実際の暮らしにつなげていくことが大切だと考えています。
これから高齢期を迎える方には、ご自身の将来のために、今のうちから住まいを考えていただきたいと思います。今は必要がないように見えることでも、将来どこの部屋で暮らすかを考え、準備しておくことはできます。
自分でできることを続け、介護が必要になったときには、介護する方にも負担の少ない環境にする。住まいについて、そうした視点を持っていただければと思います。
そのため、この取り組みを知っていただくことが必要です。モデルルームへ来て、実際に設備に触れていただくのが一番分かりやすいと思います。ご自身のこれからの暮らしを考えるきっかけにしていただければ幸いです。




